第3話 いきなりのデビュー
レイラ。
宇宙警察の刑事。18歳の乙女。見事に、宇宙トップの下着デザイナー、ドン・ハルキサワ事務所のモデルに合格。
事務所に呼び出されると、慌ただしく書類にサインし、契約成立。専属モデルとなった。あれこれの基本やスケジュールの説明を受けた。下着モデルたちの住む寮に入ることになった。寮生活は、レイラが希望したのだ。失踪したナミエの行方を探るための潜入捜査である。とにかく情報収集しなければならない。事務所の人間と接触があればあるほどよいのだ。
あれこれの手続きが済んで。
レイラは、ほっと胸を撫で下ろす。
これからいよいよ捜査を始めるのだ。表向きは、憧れの世界に飛び込んで胸をときめかせている純真無垢な女の子を演じながら、刑事の鋭い目でナミエ失踪の真相を突き止めるのだ。
「ここは戦場だ。ここからが本当の戦いだ」
レイラが自分に言い聞かせていると。
いきなり言われた。
「レイラちゃん、今度の新作ショー、あなたも出るからね。知ってるわよね。宇宙で最大の
言ってきたのはドン・ハルキサワの一番弟子デザイナーにして自身もトップモデルとして活躍する事務所のNo.2、副社長のルイーザ。所属モデルたちの取り仕切りもしている。
「ええ?」
いきなりの衝撃に、レイラは演技でなく、うろたえた。潜入捜査中なんだから、何があってもマジでうろたえたり動揺したりしてはいけないんだけど。そのくらいの一撃だった。
なにそれ? ひょっとして聞き間違いじゃないの? ドンの新作ショーに私が出るだって? 宇宙で最大の舞台に? まだ事務所に入ったばかりなのに?
目を白黒させるレイラの前で優雅な微笑みを浮かべるルイーザ。美しく、頭の切れる女性。
「あ、あの」
レイラは、思わず訊き返す。
「私が、ですか? あの、私、オーディションに合格したばかりで、デビューもまだしてないんですけど。いいんですか? モデルとして、まだその、何も」
なんだか体が震える。
最高の大舞台で、ドン・ハルキサワの新作ショー。
突然、出演が指名されて動転する女の子。見事に演じている。いや、演技じゃないんだけど。
今日オーディションに合格したばかりなのに。
「だから、今度のショーが、あなたのデビューなのよ」
うふふ、とルイーザは、レイラの動揺動転を楽しむかのようにいう。
「あなたは見事オーディションに合格した。次はデビュー。そうでしょ? ちょうどいい舞台じゃない。頑張ってね。楽しみだわ。新しい才能が花開くのを見るのが。ドンもきっと喜ぶわ。素質のある子は、どんどん前に出なくちゃ」
「さ、才能?」
レイラ、赤くなる。素なのか、潜入捜査中の刑事の演技なのか、もう自分でもわからなくなっている。
才能? 素質? 下着モデルの?
それが自分にあるんだ。確かに、今回のオーディション。少なくとも、業界トップの一流下着デザイナードン・ハルキサワの右腕であるこの切れ者の女性は、そう見ているんだ。
もちろん、大勢の参加者の中から選ばれてオーディションに合格したから、そりゃ、モデルとして認められたってことは確かなんだけど。
秘密裡の潜入捜査と、宇宙一派手にスポットライトを浴びまくる大舞台。それも下着で! なんだかギャップが激しすぎる。あんまりこれは想定していなかった。
下着モデルに応募したんだから、それなりに注目されたり見られるのは当然、覚悟をしてたけど、これはさすがに心の準備も何も。何をどうすればいいか計算も何も、できない。事務所に潜ったら目立たないように捜査して、ささっと目的達成事件解決して引き上げる、そのつもりだったんだけど。
「レイラちゃん」
ルイーザ、レイラの顔を覗き込むように見て、そっと手をレイラの肩に置く。
「そんなに固くならないで。これはサプライズ。時々するのよ。新顔がいきなり大舞台でデビュー。そういうの、みんな待ってるのよ。決められた順番とか、階段を一段ずつ上っていってとか、そういうのばかりじゃつまらないじゃない? 未知の驚き、フレッシュな予感の爆発。それが必要なの。あなたは1人で出るんじゃないのよ。大勢の先輩モデルの中に混じって、デビューするの。だから何の心配もないから。気を楽にしてね。誰もあなたを困らせたりしないから」
「あ、はい」
レイラ、ドギマギ。完全に真っ赤になっている。もはや刑事ではなく、普通の女の子モード。
「じゃあね、そういうことだから。レイラちゃん、基礎はしっかりやっておいてね。あなたなら、間違いなくできるから」
ルイーザが去った後も、1人でずっとレイラはぼんやりしていた。
潜入捜査が本命で、下着モデルの仕事は付け足したと思ってたんだけど。
もう、とてもそんなこと言ってられない!
なんだか私、期待されちゃってる!?
未知の驚き? フレッシュな予感の爆発?
確かに。
人生でありえない何かが起こりそうだ。
頭が爆発しそうだった。
いや、身体も。
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