第4話 エリート刑事の華麗なる転身




 下着モデルオーディションに合格していきなり。


 全宇宙注目の下着新作ショー、シン・トーキョー星コレクションの出演が決まった。


 「ええと、今、自分がしなくちゃいけないのは」


 レイラは、かなり溶けそうになってる脳で、必死に考える。


 「落ち着くんだ。私は宇宙警察の刑事。そして、休暇を取って個人として捜査をしている。消えた下着モデルの子、ナミエを探すために。ナミエは、このドン・ハルキサワ事務所に、間違いなく所属していた。だから、ここでナミエ失踪の手がかり、何かつかめるはずなんだ。つかなきゃいけないんだ。そのためには。とにかく、新人モデルになりきる。刑事だとか疑われちゃいけない。潜入捜査の基本をしっかりやればいい。とにかく、夢の世界に入っていきなり大舞台に立てと言われた女の子、それを演じるんだ!」



 厳密には、演じる必要はなかった。全くなかった。


 大舞台に立つと聞いて、レイラの興奮ドキドキビクビクキュンキュンは、最高潮に達していた。何度も沸点を越えていた。


 うまく潜り込めたら、事務所の片隅で目立たないように捜査しようと思ってたんだけど。そういう状況ではなくなった。


 大舞台で自分の下着姿を披露。全宇宙に!


 身体が震える。


 演技などしなくても、すっかり初めての大舞台に臨む新人モデルの女の子そのままだった。不安と緊張、焦燥の堂々巡り。

 

 「自分は、モデルだ。モデル。夢がかなって、胸をときめかせているモデル」


 レイラは、必死に自分に言い聞かせ、モデルのレッスンをする。先生の指導を受けながらの、ひたすらレッスンである。シン・トーキョー星コレクションまで、あと1週間しかないのだ。


 とにかく、レッスンするしかない。事務所専属モデル合格の次の関門。


 ウォーキングやポージング、表情の作り方。ドン・ハルキサワ事務所自慢の超一流の先生たちに習う。


 レイラは、宇宙警察学校を卒業している。体術格闘術射撃術で、常にトップの成績だった。だからモデルの仕事も体当たりでやれば、なんとかなる、身体を動かす仕事なんだし。そう思ってたんだけど。


 「はい、レイラ、表情! なに、それ。怖い顔しちゃダメ! 観てる人を圧迫してどうするの? みんなを魅せなきゃいけないのよ! そんな顔してたら怖がらせちゃうよ! やり直し!」


 先生に、厳しくダメ出しをされる。


 レイラ、慌てるが、焦るとなおさらうまくいかない。


 怖い顔してる? うーん。それはずっと、警察学校で、尋問の仕方とか、〝悪党にナメられない顔の仕方〟とか、〝逮捕時に相手を怯ませ抵抗する気をなくす技術テクニック〟とか。そういう職業なんだもん。


 そんなのばっか習ってきたんだもん。


 「テメー、おとなしくしろ、この光線銃ブラスターが目に入らないのか、つべこべ言ってると、頭ブチ抜くぞ!」


 そういうのなら得意なんだけどな。


 みんなを魅せる、か。


 ただ、笑顔になりさえすればそれでいい、と思ってたんだけど。それがこんなに難しいなんて。


 それに。


 「動きが硬い! レイラ、なんだかあなたの動き、素早いけど、ごっつい。ロボットや戦車みたい。なんだかドンパチ始めようって感じするのよね。全然ダメ! もっと柔らかく、エレガントに! 愛くるしく! みんなの目線を誘う手と足の運びを意識して。ねえ、何、その歩き方。キックの練習? モデルって、人を蹴飛ばして歩くんじゃないんだからね!」



 うぐぐ……



 レイラ、余計にぎこちなくなる。


 体術格闘術逮捕術のプロだから、体を動かすのは自信あるんだけど。抵抗する被疑者を一撃で気絶させる手刀の捌きとか。


 柔らかく、誘うように。みんなの視線を奪って離さない、とか。


 そんな動き、生まれてからこの方したことない! 考えたこともない!


 エリート刑事から、トップ下着モデルへの転身。想像してたのよりはるかにハードルが高い。


 だが、ここで音を上げてはいけない。


 せっかくうまくドン・ハルキサワ事務所に潜れたんだ。使えないやつだと放り出されたら、今までの苦労が水の泡だ。潜入捜査は成功させなければならない。そのためには、与えられた仕事をしっかりこなさなければならない。下着モデルの大舞台で、必ず成功をつかまなければならない。認めてもらわなければならない。


 とにかく表情と動き。モデルだ。下着モデルになりきるんだ。もう下着モデルの自分、それしかいない。そう考えるんだ。


 ここはひとまず、刑事の自分なんて捨てないと!


 柔らかく、愛らしく、お茶目で、キュートに、魅せて、誘うように。


 必死になればなるほど、表情も動きも硬くなる。


 そのたびに、先生の叱咤激励が飛ぶ。


 「レイラ、ダメ! はい、もう一回」


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