第13話
レンは決断した。 この世界を、文字通り「独立」させる。 運営という名の神から切り離し、住民たちが自分たちの意志で生きていける「本当の世界」へ。
「バルト、リリィ。……少しの間、留守にする」 「レン様、行かないでください! 一人で行くなんて……!」 「師匠! 俺も行きます! 師匠の箒の届かない場所なら、俺の剣が道を切り開きます!」
二人の言葉に、レンは優しく首を振った。 「いや、これは俺にしかできない『最後の掃除』だ。……リリィ、今日届いた最後のログインボーナスをくれ」
リリィが涙を拭い、震える手でウィンドウを開く。
【最終ログインボーナス:『世界の鍵(マスター・キー)』】 【内容:サーバーの完全独立、および物理次元へのゲート開設】
「よし。……最高の報酬だ」
レンは広場の中心で、竹箒を地面に突き立てた。 広場全体が眩い光に包まれ、レンの姿が透けていく。 彼は今、データという殻を脱ぎ捨て、情報生命体として「現実」という名の戦場へ殴り込もうとしていた。
「……あ、そうだ。バルト」 「はいっ、師匠!」 「俺がいない間、広場の掃除を欠かすなよ。……帰ってきた時に汚れてたら、レベル1兆倍のスクワットをさせるからな」
「はい! 必ず、鏡のように磨いておきます!」
レンは満足げに頷くと、光の中に消えていった。
……次にレンが目を開けた場所。 そこは、冷たい機械の音が響く、銀色のラボだった。 無数の管に繋がれた自分の「本当の体」。そして、驚愕の表情で自分を見つめる白い服を着た大人たち。
レンはゆっくりと、仮想世界から持ち出した「光り輝く竹箒」を右手に具現化させた。
「……さて。ここの『ゴミ』も、相当溜まってるみたいだな」
レンの不敵な笑みが、現実世界のモニターに映し出される。 レベル1から始まった彼の成り上がりは、ついに次元の壁を越え、神(創造主)を掃除する段階へと突入した。
彼の「無限レベルアップ」は、まだ終わらない。 この世に汚れがある限り、掃除係の戦いは続いていくのだ。
冷たい滅菌室の匂い、そして絶え間なく鳴り響くバイタルモニターの電子音。 レン――現実世界での名、蓮見蓮(はすみ・れん)は、数年ぶりに自分の「肉体」という名の重い檻の中で目を開けた。
「……重い。ログインボーナスの重力軽減がないと、空気さえ鉄板のようだ」
目の前には、強化ガラス越しに腰を抜かしている白衣の男たちがいた。彼らは『エターナル・コーポレーション』の最高技術者たちだ。彼らにとって、蓮見蓮は「フルダイブ環境における精神汚染の限界実験体」に過ぎなかった。
「被験者……目覚めたのか!? バカな、脳波は完全にサーバーと融合していたはずだ!」 「緊急停止(シャットダウン)しろ! 外部出力ポートを物理的に切れ!」
男たちがパニック状態でコンソールを叩く。だが、レンの口元には不敵な笑みが浮かんでいた。 彼は右手をゆっくりと持ち上げる。そこには本来、現実には存在するはずのない「光り輝く竹箒」が、ノイズを撒き散らしながら具現化していた。
「無駄だ。俺のレベルは、もうサーバーの中だけのもんじゃない。……この現実という名のクソゲーも、システム(物理法則)で動いている以上、俺の『掃除』の対象だ」
レンが箒を軽く振る。 ――パリンッ! 防弾仕様の強化ガラスが、衝撃波ではなく「存在確率の消去」によって霧散した。 レンは繋がれていた無数の管を、まるで不要な配線のように引きちぎって立ち上がる。
「ログインボーナス……『現実世界でのステータス反映』。……反映率、0.0001%で十分だな」
レンの痩せ細った肉体が、内側から溢れ出す膨大なエネルギーによって再構成されていく。 かつて仮想世界で1兆倍の経験値を経た魂が、現実の肉体という「ハードウェア」を強制的にアップデートし始めた。
「さあ、まずはこの汚いラボの『大掃除』から始めようか」
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