第12話
プロトコル・ゼロが放つのは、光でも魔法でもない。「存在確率の改竄」だった。 レンが通るはずの空間の座標を、あらかじめ「無」に書き換えることで、彼を物理的に消滅させようとする。
だが、レンは笑った。 「お前らのやり方は、前世のクソゲー運営と同じだ。いつも数値(パラメータ)で解決しようとする。……だが、ゲーマーはな、その数値の『隙間』を突くのが仕事なんだよ!」
レンはログインボーナス『スタック倍率:自由変換』を起動した。 これまで経験値に振っていた「1兆倍」の倍率を、全て「並列存在数」へと変換する。
その瞬間、広場には数兆人の「レン」が出現した。 正確には、一人のレンが数兆の可能性として同時に存在している状態。 プロトコル・ゼロの「一箇所を消す」という処理能力を、圧倒的な「物量」でパンクさせたのだ。
「サーバーの処理落ち(オーバーロード)だ。ざまあみろ、お前たちの計算能力じゃ、俺一人の『可能性』すら数え切れないだろ」
数兆人のレンが一斉に竹箒を振り下ろす。 それは概念的な「清掃」だった。 プロトコル・ゼロを構成する膨大なコードの一本一本を、レンは「汚れ」として認識し、丁寧にかき出していく。
「バルト! リリィ! 今だ、システムの『穴』を突いて、市民たちのバックアップを取れ!」
師匠の指示に、バルトが叫ぶ。 「了解です、師匠! この『バグ剣』で、次元の壁をこじ開けます!」 かつての雑用係の弟子は、今や空間そのものを斬り裂く「特異点の騎士」へと成長していた。
レンの箒が、プロトコル・ゼロの中心核(コア)を捉える。 「ログインボーナス……『ゴミ箱へ移動』。……あばよ、無能な管理者」
轟音と共に、世界の凍結が解除され、赤い警告ウィンドウが粉々に砕け散った。
プロトコル・ゼロを撃破したその瞬間、レンの脳内に「ノイズ」が混じった。 それはゲームのシステム音ではない。もっと生々しい、機械的な音声。
『……被験者、レン。脳波の異常な同期を確認。……信じられない、彼は内部からサーバーを掌握している……』 『プロジェクト・エターナルを即刻中止しろ! 彼の意識を強制排出(エジェクト)するんだ!』
「現実世界」の人間たちの声だ。 レンは自分が、単なる転生者ではなく、何らかの実験体としてこの世界に送り込まれた可能性を悟る。
「……リリィ。この世界の『外側』には、俺を操ろうとする連中がいるらしい」 「えっ……? 外側……? この空の向こうに、別の世界があるんですか?」
リリィは震える。彼女たちNPCにとって、この世界こそが全てだ。 だが、レンには見えていた。空の青さが、単なる液晶の輝きに過ぎないことが。 そして、その「外側」の連中が、自分たちの都合でこの平和を再び壊そうとしていることが。
「俺は、この街の掃除係だ。……外から入ってくる汚れが一番タチが悪いんだよ」
レンは空を見上げ、管理権限を最大まで開放した。 ログインボーナス『現実(リアル)への干渉権』。 それは、本来なら絶対に選んではいけない、禁断の項目だった。
「おい、外の連中。聞こえてるんだろ? ……今からそっちの『部屋』も、掃除しに行ってやるよ」
レンの手にした竹箒が、銀色の光を放ち始める。 それは仮想世界のデータが、現実世界の電子信号を逆流し、物理的な力へと変換される予兆だった。
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