第11話
空を埋め尽くす、全サーバー連合軍の十万の精鋭。 彼らは魔法、科学、聖力、あらゆる文明の粋を集めた究極の攻撃をレンの街に叩き込む。
「これが答えだ! 世界の調和を乱す者は消え去れ!」
空が真っ白に染まるほどの総攻撃。 だが、その光が収まった時、そこには無傷の街と、鼻歌を歌いながら箒を振るうレンの姿があった。
「……遅いな。掃除はもう終わったぞ」
レンが指差した先。連合軍の兵士たちは驚愕した。 自分たちの足元が、いつの間にか「空」になっている。 いや、地面が消えたのではない。彼らが立っている「座標データ」そのものを、レンが別の空間へ書き換えたのだ。
「ログインボーナス……『サーバー移転券』の強制適用」
「なっ……ここは、どこだ!?」 連合軍が飛ばされたのは、かつてレンが攻略した、あの絶望のダンジョン『虚無の回廊』の最下層だった。
「そこでしばらく、世界のゴミ拾いでもしてな。ここは俺の家だ。勝手に入るのはマナー違反だぞ」
レンは全権管理コマンドを閉じ、リリィから渡された「本日のログインボーナス」を受け取った。
【内容:『伝説の掃除用洗剤』】
「よし、次はあの汚れた空のゲートを磨きに行くか」
レベル1の掃除係。 彼は今日も、ログインボーナスという名の奇跡を手に、世界の汚れを落とし続ける。 神になどならず、ただひたすらに、愛するこの場所を「綺麗にする」ために。
その背中は、どんな勇者の金色の鎧よりも、眩しく輝いていた。
全サーバー連合軍を『虚無の回廊』へ追放したことで、レンは名実ともに「世界の主(マスター)」として認識されるようになった。しかし、それは同時に、この仮想現実を外側から観測している「真の創造主」——現実世界の超巨大企業『エターナル・コーポレーション』の逆鱗に触れることを意味していた。
ある朝、レンが広場の噴水に溜まった落ち葉を掃いていると、視界のインターフェースが血のような赤色に染まった。
【警告:致命的なシステム例外を検知】 【プロトコル『世界の終焉(ラグナロク)』を起動します】 【全てのNPC、およびオブジェクトの物理演算を停止——デバッグ・モードへ移行】
「……っ、レン様! 体が、動きません!」 リリィの悲鳴が響く。見れば、広場を行き交う市民も、空を飛ぶ鳥も、舞い落ちる木の葉さえもが、中空でピタリと静止していた。まるで時間が止まったかのような、無機質な静寂。
動けるのは、管理権限の断片を持つレンだけだった。
「ついに本気で消しに来たか。だが、掃除中に割り込まれるのが一番嫌いなんだよ」
レンはログインボーナスで得た『管理者用パスワード』を脳内で打ち込む。 彼の周囲だけ、世界の凍結が解除される。レンは静止したバルトの肩に手を置き、彼をシステムの制約から無理やり引き剥がした。
「バルト、目を開けろ。ここからは『ゲーム』じゃない。本当の『修正』が始まるぞ」
空から降りてきたのは、これまでの「天使」や「代行者」とは次元が違う存在だった。それは数万のコードが編み込まれて形成された、巨大な「眼球」のような球体。 『真・運営官:プロトコル・ゼロ』。 それは意思を持たず、ただ「異常なデータ(レン)」を消去するためだけに存在する、宇宙規模のウイルス対策ソフトだった。
「レン様、あれは……あれに触れられたら、存在そのものが『なかったこと』にされます! データの復元すら不可能です!」 リリィの警告。だがレンは、古びた竹箒をゆっくりと構えた。
「『なかったこと』にする、か。なら、その消しゴムごと、俺が掃き出してやるよ」
レンは一歩踏み出し、物理法則が停止した空間を「バグによるワープ」で駆け抜けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます