第9話

外部からの脅威を排除し、中枢階層を「更地」にしたレン。 彼は崩壊しかけたサーバーを、自身のレベルを犠牲にすることで再構築(リストア)した。



「レン様! レベルが……レベルが下がっています! 1兆倍のスタックが消えていく!」 リリィが泣きながら叫ぶ。 レンの体から、あの圧倒的なオーラが消えていく。 レベル999、100、50……。 そしてついに、彼は元の「レベル1の掃除係」に戻った。



「……ふぅ。体が軽いな。ようやく普通の掃除ができる」 「どうして……あんな力があれば、神にだってなれたのに!」



レンは笑って、新しい竹箒を手にした。 「神様なんて忙しい仕事、俺には向いてないよ。それに……見てみろよ」



レンの視界の端に、小さなウィンドウが表示される。



【通知:世界サーバーの正常化を確認】 【新規プレイヤー特典(1000倍)は終了しました】 【これより『正式サービス』を開始します】 【本日のログインボーナス:『特製・高級竹箒』】



「レベルアップで成り上がるのはもう終わりだ。これからは、この世界を『維持』していくのが、俺の新しいクエストだ」



広場には、平和な朝が戻っていた。 バルトが怒鳴り、市民が笑い、女神リリィが隣で小言を言っている。 レベル1に戻ったはずのレン。だが、彼が一度箒を振るえば、そこにはどんな魔法よりも美しい清浄な空間が広がっていた。



「さあ、仕事だ。今日は街中のゴミを全部片付けるぞ!」



最強のレベルアップを経て、最強の日常を手に入れたゲーマー。 彼の伝説は、今日も石畳を掃く「シャッ、シャッ」という音と共に刻まれていく。




世界が「正式サービス」へと移行したあの日から、空の色が変わった。 かつての『エターナル・レジェンド』は、レンというバグ同然の個体によって一度完結した。しかし、システムの再起動(リブート)は、他サーバー――すなわち、別の進化を遂げた「異世界」との接続を意味していた。



「レン様、また空に『ゲート』が開いています。今度は『第4サーバー:機甲世界』からの接続だそうです……」



新米女神リリィが、ホログラムのログをめくりながら頭を抱える。 レンは相変わらず、レベル1の掃除係として広場を掃いていた。レベル1兆倍という狂った補正は消えたが、彼には「一度神域に到達した経験」と、リブート時に得た「サーバー管理権限の一部」が残っている。



「機甲世界? 魔法じゃなくて科学サイドの連中か。掃除の仕方が変わりそうだな」



空が物理的に「剥がれ」、そこから巨大な鋼鉄の戦艦が姿を現した。 彼らはこの世界を「未開の資源サーバー」と見なし、正式サービス開始と同時にログインしてきた、異世界の『プロプレイヤー』たちだ。



「全艦、掃射開始。このサーバーの住人はNPCだ。全消去して経験値に変えろ」



冷徹な号令と共に、魔力砲(マナ・カノン)が街に降り注ぐ。 逃げ惑う市民。騎士バルトが盾を掲げるが、機甲世界の圧倒的な火力の前では紙クズも同然だ。



「……リリィ、さっき届いたログインボーナスは何だった?」



レンが静かに問う。 「ええと……『管理用コマンド・権限の10秒間解放』ですが……今のレン様のレベルでは、使った瞬間に体が壊れます!」



「10秒か。十分だな。……掃除機を出すには少し短いが、ホウキを『拡張』するには十分だ」



レンは手に持っていた竹箒を天に突き出した。 「システム・コール。管理権限レベル10。オブジェクトID:Bamboo_Broom。属性を『対概念・次元断裂』に固定」



レンの持つ古びた箒が、バグったようなノイズを発し、数百メートルの「光の断層」へと変貌した。



「掃き掃除の時間だ」



レンが箒を横に一閃する。 空を覆っていた鋼鉄の戦艦群が、まるで見えない消しゴムで消されたかのように、一瞬で「背景データ」ごと消滅した。

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