第8話
平和な時間は長くは続かなかった。 リブートした世界サーバーは、かつてこのゲームを運営していた「現実世界」の残滓――すなわち、外宇宙からのハッカーや不正プログラムの標的となったのだ。
空に巨大な「コマンド・ウィンドウ」が出現し、そこから無機質な機械の軍勢が降り注ぐ。 それは魔王軍のような「世界の住人」ではない。 この世界のコードそのものを書き換え、資源として吸い上げるための「解体プログラム(リクレイマー)」だ。
「リリィ、あれは何だ?」 「嘘……!? 外部からの不正アクセスです! 管理権限が乗っ取られています! このままだと、この世界はあと数時間で『初期化(フォーマット)』されます!」
絶望するリリィ。街の人々が消滅の光に包まれそうになったその時、レンが箒を天に掲げた。
「初期化、ね。……俺のデータを消せるもんなら消してみろ」
レンは自身にスタックされた「1兆倍の経験値」を、全て「演算処理能力」に全振りした。 彼の脳がスーパーコンピュータを遥かに凌駕する速度で世界を逆ハッキングし始める。 「ログインボーナスを『回線帯域』に変換。アクセス元を特定……見つけたぞ」
レンの竹箒が、空虚な空間を「物理的」に引き裂いた。
レンが開いた「穴」の向こう側には、無数のモニターに囲まれた銀色の空間――サーバーの「中枢階層」が広がっていた。そこには、外部からこの世界を弄ぶ「旧人類の残党」たちがいた。
「バカな! デジタル世界の住人が、どうやって物理階層へ干渉してきている!?」 「バグか!? 修正プログラムを送れ! 消去しろ!」
次々とレンに放たれる「消去命令(デリート)」。 だが、レベル1兆倍のレンにとって、それはそよ風のようなものだった。 彼は「存在の強固さ」というステータスが、概念の壁を突破していた。
「あんたたちが、この世界を『おもちゃ』だと思ってるのは勝手だ。だがな、ここを掃除してる身にもなれよ。勝手にデータを散らかすんじゃねえ」
レンは一歩踏み出し、中枢階層の床を蹴った。 その瞬間、現実とデータの境界が崩壊する。 彼は竹箒をバットのように構え、外宇宙から送られてくる巨大な「攻撃パケット」を、文字通り物理的に打ち返した。
「反射(リフレクト)? いいえ、これは『物理法則の押し売り』です!」 叫ぶリリィ。 レンが放つ一撃は、データという概念を「質量のある鉄塊」に変え、ハッカーたちのシステムを物理的に粉砕していく。
「ログインボーナス・スタック第120層――『全事象強制清掃(ユニバーサル・クリーニング)』!」
レンの箒から放たれた光が、世界を侵食していた不正コードを、塵一つ残さず「掃き出し」た。
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