第5話
魔王軍の幹部と運営の代行者を退けたレンの噂は、大陸全土を駆け巡った。これに危機感を抱いたのは魔王側だけではない。人類の守護者であるはずの「聖シュティール帝国」もまた、制御不能な「特異点」の出現に震えていた。
帝国は、禁忌とされる儀式を強行する。それは、異世界から「正義の勇者」を召喚すること。
「……ここが異世界? 俺が、選ばれた勇者か!」
召喚されたのは、現代日本から来た高校生・カイト。彼は運営から与えられたチートスキル『聖剣の導き(全ステータス100倍)』を手に、レンのいる街へと進軍する。
「掃除係のバグキャラが暴れてるんだって? 運営の代わりに俺が『修正』してやるよ」
カイトがレンの前に現れた時、レンは相変わらず広場でスライムの粘液を拭き取っていた。 勇者の放つ神々しいオーラに、周囲の市民はひれ伏す。だが、レンは一度も顔を上げない。
「おい、無視すんなよ。お前、自分が何したか分かってんの? ゲームバランス壊した罪は重いんだぜ」
「……ゲームバランス、ね」
レンは立ち上がり、勇者のステータスを鑑定する。 『勇者カイト:レベル100(補正後レベル10,000相当)』 確かに、この世界の常識では無敵だ。だが、1兆倍の経験値を経たレンからすれば、「小数点以下の誤差」に過ぎない。
カイトが放つ聖剣の一撃。それは山をも割る威力のはずだった。 しかし、レンはそれを「人差し指と中指」で挟んで止めた。
「な……!? 聖剣を、指で……!?」
「100倍程度のバフで勇者気分か? 悪いな、俺は『1兆倍』をさらにスタックさせてるんだ。お前の剣、おもちゃみたいに軽いぞ」
レンが指先に少し力を込めると、伝説の聖剣が飴細工のようにぐにゃりと曲がった。
勇者をデコピン一発で帝国へ送り返したレンは、もはやこの世界の表側に敵がいないことを悟る。次に彼が目を向けたのは、前世の廃ゲーマー時代に一度もクリアできなかった隠しダンジョン『虚無の回廊』だった。
そこはレベル999でも攻略不可能と言われた、運営の悪意が詰まった「絶対死域」。 レンは街の掃除をバルト(今やレンの熱狂的な信者兼弟子)に任せ、一人で異次元の扉を開く。
「懐かしいな。当時はサーバー負荷で入れなかった隠しフロアだ」
現れる敵は、レベルが測定不能な「概念体」。物理攻撃無効、魔法反射、即死攻撃の連発。 普通のプレイヤーなら一歩目で詰む場所だが、レンは歩みを止めない。
「『物理攻撃無効』か。なら、物理の定義を書き換えればいい」
レンが発動したのは、神域スキル『因果律崩壊』。 「殴ったから壊れる」のではなく、「壊れたから殴ったことにする」という結果の先取り。 本来なら数ヶ月かけて攻略するはずのダンジョンを、レンは鼻歌交じりに「最短ルートの壁を突き破って」進んでいく。
最深部で待っていたのは、かつてのゲームマスターが残した「世界の真実」を記した石碑だった。
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