第4話

「ありえない……ありえない! 私はレベル300を超えた死霊の公爵だぞ! このエリアのシステム上限はレベル100のはずだ!」



ジェラールは狂ったように魔力を暴走させ、禁忌の魔法をレンに叩き込む。 だが、レンは避けない。 全ての魔法は、レンの体に触れる寸前、あたかも「存在を許されないバグ」として消滅していく。



「システム上限? ああ、そんなものもあったな」



レンはジェラールの胸ぐらを掴み、そのまま軽々と持ち上げた。



「俺にとっては、ただの数字だよ」



そのまま指先でデコピンを一つ。 神域の力が込められたその一撃は、ジェラールの肉体を分子レベルで崩壊させ、魔王軍の幹部という「データ」を完全に抹消した。



静まり返る広場。 騎士たちも、市民も、バルトも、何が起きたのか理解できず口を開けている。 だが、その沈黙を破ったのは、天から降り注ぐ冷徹な声だった。



【警告:世界理(システム)への深刻な干渉を確認】 【対象個体:レン。異常なパラメータを検知】 【これより、運営代行者による『論理削除』を実行します】



空から、まばゆい光と共に三対の翼を持つ「天使」が降臨した。 それはこの世界の神、すなわち「ゲーム運営」が送り込んだデバッグ用のアバターだ。



「……チッ。やっぱり来たか」



レンは苦々しく笑う。 天使は感情のない瞳でレンを見据え、手に持った聖剣を掲げた。 それは、触れた対象のステータスを強制的にゼロにする「管理権限」の刃。



「個体名レン。貴方の存在は世界の崩壊を招きます。ここで消去されます」



「消去? 面白い。やってみろよ」



レンは竹箒を捨て、今度は素手で構えた。 「運営さんよ、あんたたちは一つ勘違いしてる。俺はバグを利用したんじゃない。俺自身が、このクソゲーを誰よりも愛して、誰よりも知り尽くした『最強のプレイヤー』なんだよ!」



天使の聖剣が振り下ろされる。 同時に、レンの拳が突き出される。



管理権限 vs 無限レベルアップ。 世界の理と、一人のゲーマーの意志が真っ向から激突する。



結果は一瞬だった。 管理権限の剣は、レンの「レベル999」という圧倒的な数値の物量の前に、処理落ちを起こして砕け散った。



「システムが……追いつかない……? そんな、バカな……」



天使の体がノイズのようにブレ始める。 レンは天使の肩を叩き、耳元で囁いた。



「これからは、俺がこの世界のルールだ。文句があるなら、もっとマシなパッチでも当ててから来い」



レンの拳が天使を貫き、運営のアバターは光の粒子となって霧散した。



三日後。 街には平和が戻っていたが、もはや以前と同じではない。 「史上最強の掃除係」の噂は一晩で大陸中に広まり、王家も魔王も、一人の少年を無視できなくなっていた。



だが、レンは相変わらず、ボロ布の服を着て広場を掃いている。



「さて……魔王軍も運営も追い払った。次は、この世界のどこかに隠されている『エンドコンテンツ』でも探しに行くか」



レベル1兆倍の掃除係。 彼の本当の「遊び」は、まだ始まったばかりだった。

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