第3話
運命の三日後。 広場には、王都から派遣された視察団と、バルト率いる騎士団が集まっていた。 レンは隅の方で、相変わらず竹箒を持って立っていた。
「さあ、演習を開始する! まずはあの雑用係を標的に――」
バルトがニヤリと笑い、合図を送ろうとしたその時。 空が、割れた。
太陽の光が遮られ、街全体がどす黒い影に覆われる。 上空に開いた巨大な「門(ゲート)」から、数千、数万のガーゴイルと死霊の軍勢が溢れ出してきた。
「な……何だ!? 演習の予定にはないぞ!」 「魔王軍だ! 本物の魔王軍が来たぞーッ!!」
悲鳴が上がる。 門の中心から、漆黒の馬車に揺られて一人の男が降り立つ。 死霊公ジェラール。レベル320。このエリアのプレイヤーにとって、本来は数百人のレイドパーティを組んで挑むべき絶望の象徴。
「ククク……愚かな人間どもよ。この街は、今日から死者の楽園となる」
ジェラールが指先を向けるだけで、強力な死の呪いが広場を焼き払う。 自慢の鎧に身を固めた騎士たちが、戦う間もなく次々と膝をつき、絶望に瞳を染める。
「ひいぃっ! 助けてくれ! 誰か!」
真っ先に逃げ出そうとしたバルトの前に、ガーゴイルが降り立つ。 振り下ろされる鉤爪。バルトが死を覚悟し、目を閉じた――その時。
「……騒がしいな。せっかく綺麗に掃いたんだから、砂を上げないでくれよ」
場違いなほど穏やかな声。 次の瞬間、バルトの目の前にいたガーゴイルの首が、跡形もなく消し飛んでいた。
そこには、ボロ布を纏った掃除係の少年――レンが立っていた。 手には、どこにでもある古びた竹箒。
「貴様……何者だ?」 ジェラールが不快そうに目を細める。
「ただの掃除係だよ。……まずは、そのうるさい羽虫どもから片付けるか」
レンは竹箒を、軽く、本当に軽く、横に一閃した。
――ドォォォォォン!!
爆音。 それは風圧などという生易しいものではなかった。 レンが振るった箒の先から、圧縮された大気が「因果をねじ伏せる衝撃波」となって放たれたのだ。
空を埋め尽くしていた数万の魔王軍が、一瞬で、文字通り「塵」に変わった。 雲は吹き飛ばされ、先ほどまでの不吉な闇は消え去り、突き抜けるような青空が戻る。
「……え?」 ジェラールが呆然と空を見上げる。 自分の軍勢がいない。影も形もない。
「次はお前だ。不法投棄された巨大なゴミさん」
レンが、一歩、踏み出す。 その足音が、ジェラールには死神の宣告よりも重く響いた。
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