第2話
「……まずい。これは、想像以上にまずいな」
翌朝。レンは自室のボロ小屋で、己の「手」を見つめて戦慄していた。 ただ起きて、伸びをしただけだ。それだけで、寝ていた木製のベッドが衝撃波で粉砕され、床板には底が抜けるほどの亀裂が入っていた。
【ステータス】 名前:レン レベル:999(上限突破・神域) 攻撃力:99,999,999 防御力:99,999,999 称号:『バグの体現者』『歩く天災』
「経験値1兆倍のまま、寝ている間に『呼吸』だけで経験値が入っていたのか……」
この世界では、生命活動そのものが微弱な経験値を生む。通常なら一生かけてもレベル1も上がらない誤差だが、1兆倍ともなれば話は別だ。寝返りを打つたびに、レンは神殺しの力を更新し続けていた。
今のレンにとって、空気抵抗は粘土のように重く、地面は薄氷のように脆い。 普通に歩けば一歩で街の反対側まで突き抜け、咳払いをすれば突風で民家が吹き飛ぶだろう。
「このままじゃ、魔王軍が来る前に俺がこの街を滅ぼしちまう」
レンは超精密な魔力操作を行い、全身に「幾重もの封印結界」を張り巡らせた。 前世の廃課金ゲーマー時代、極限の制約プレイで培った精密操作技術。 99.99%の力を封じ込め、ようやく「普通の人間の動き」を取り戻す。
そこへ、再びバルトがやってきた。昨日の鎧破壊がよほど屈辱だったのか、今度は重装備の私兵を連れている。
「おい、昨日の小細工は何だ! 貴様、禁忌の魔導具でも隠し持っているな!?」
バルトの怒鳴り声。だが、今のレンにはそれが、羽虫の羽音よりも小さく感じられた。 レベルの差がありすぎて、もはや相手のステータスすら「測定不能(弱すぎるため)」と表示されている。
「……バルト様。今は忙しいんです。三日後の『掃除』の準備が」
「黙れ! 衛兵、その生意気な口を叩けなくなるまで叩きのめせ!」
私兵たちが一斉に槍を突き出す。 レンは動かない。いや、動く必要がなかった。 「自動反撃(オートカウンター)」のスキルをオフにするのを忘れていたのだ。
槍の先がレンの服に触れた瞬間――。 キンッ! と澄んだ音が響き、鋼鉄の槍が、まるでガラス細工のように粉々に砕け散った。
「な……ッ!?」
「あ、すみません。服、硬かったですかね」
レンは苦笑いする。 実際には、レンの皮膚の強度がダイヤモンドを遥かに超えているため、物理的な接触はすべて相手側の自壊を招くのだ。
「化け物め……! 覚えておけ、三日後の演習では、公式に貴様を『処分』してやる!」
捨て台詞を残して逃げ出すバルトたち。 レンはそれを見送りながら、静かに拳を握った。 「……三日後。演習が始まった瞬間に、魔王軍の幹部『死霊公ジェラール』が現れる。あいつを倒さない限り、この街に未来はない」
レンは箒を手に取り、誰もいない広場で素振りを始めた。 一振りするたびに、空気が悲鳴を上げ、真空の刃が雲を切り裂く。 その光景は、もはや掃除ではなく、神の舞踏に近かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます