最弱ゴミ掃除係に転生した元廃課金ゲーマー、ログインボーナスの『経験値1000倍』をバグで重複させて、気づけば世界最強の神域に到達する~死にたくなければレベルを上げて物理で殴るだけです~

平山和人

第1話

「……はあ、またこれか」



レンは泥にまみれた石畳を這いずりながら、ため息をついた。 視界の端に浮かぶのは、半透明のシステムウィンドウ。



【現在のジョブ:騎士団雑用係(掃除担当)】 【レベル:1】 【HP:10/10】 【MP:2/2】



前世の俺なら、鼻で笑ってアンインストールするようなクソステータスだ。 だが、これはゲームじゃない。俺の「現実」だ。



数日前、俺は前世でやり込んでいた超難易度VRMMO『エターナル・レジェンド』の世界に転生した。それも、サービス終了直前の記念イベントで、魔王軍に真っ先に蹂躙されて死ぬ、「名もなき掃除係」として。



「おい、サボるなゴミ虫! そこが汚れているぞ!」



背後から飛んできたのは、重厚な鎧に身を包んだ騎士・バルトの罵声と、硬いブーツによる蹴りだった。 背中に衝撃が走り、レンは水溜りに顔から突っ込む。



「……すみません、すぐやります」



「チッ、これだから平民のガキは。三日後には魔王軍との演習があるんだ。それまでにこの広場を鏡のように磨いておけ。役立たずはそれくらいしか価値がないからな」



バルトは嘲笑いながら去っていく。 三日後。それは「演習」なんて生易しいものじゃない。 ゲームのシナリオ通りなら、魔王軍の先遣隊が突如として街の結界を破り、この広場は数分で血の海に変わる。バルトのような無能な騎士も、そして俺のような雑用係も、等しく一撃で肉塊にされる確定敗北イベントだ。



(逃げ出すか? いや、街の外はさらに高レベルの魔物がひしめいている。レベル1の俺が出たところで、一分も持たずにウサギに食い殺されるのがオチだ)



死へのカウントダウン。 だが、俺には一つだけ勝算があった。



この世界のシステムは、俺が遊び尽くした『エターナル・レジェンド』そのものだ。そして俺は、そのゲームの「仕様」を誰よりも知っている。



(この世界には『ログインボーナス』が存在する。だが、住人たちはそれを『女神の朝の祈り』と呼んで、一日一回ステータスが微増する儀式だと思い込んでいる……。もし、あの裏技が使えるなら)



俺は掃除用具を放り出し、広場の片隅にある「女神の祈祷石」へ向かった。 そこはゲームにおけるセーブポイントであり、ログインボーナスの受取場所だ。



石に手を触れる。



【ログインボーナスを獲得しますか?】 【内容:24時間経験値1000倍(新規プレイヤー特典)】



「……これだ」



本来、この特典はゲーム開始時に一度だけ配られる運営の救済措置だ。 だが、俺はこのゲームの致命的なバグを知っている。 「祈祷石」に触れた瞬間、意識を特定のリズムで切断(ログアウト偽装)し、再接続を繰り返すと、処理が追いつかずにボーナスがスタック(重複)するのだ。



「システム・アクセス。疑似切断。リトライ」



心臓の鼓動をトリガーに、俺は精神を加速させる。 かつて廃課金ゲーマーとして、ミリ秒単位の操作を要求されるレイドボスをソロで狩っていた俺にとって、この程度のタイミング合わせは赤子の手をひねるより容易い。



カチ、カチ、カチカチカチッ!



脳内で何かが噛み合う音がした。



【エラー:処理が重複しています】 【ログインボーナスを適用:経験値1,000倍 × 1,000倍……】 【現在:経験値1,000,000倍(100万倍)が適用されました】



(まだだ。これじゃ足りない。魔王軍の幹部はレベル300を超える。100万倍程度じゃ、三日でそこまで届かない)



俺はさらに意識を研ぎ澄ます。 周囲の音が消える。バルトの嘲笑も、風の音も、自分の呼吸音さえも。 ただ、システムウィンドウの数字だけが狂ったように回転していく。



【現在:経験値1,000,000,000,000倍(1兆倍)が適用されました】



「……ふぅ、これくらいでいいか」



目の前の景色が白く弾けた。 俺はゆっくりと立ち上がり、足元を這っていた小さな虫――「街の害虫(レベル0.1相当)」を指先で一突きした。



直後、脳内に凄まじい音量のファンファーレが鳴り響く。



【レベルが上昇しました】 【レベルが上昇しました】 【レベルが……レベルが……レベルが……】 【レベルが999に到達しました。限界突破処理を実行します】 【神域スキル『因果律崩壊』を獲得しました】



体の底から、溢れんばかりの熱い奔流が突き上げてくる。 筋肉が再構成され、視界は千里先まで見通せるほどに澄み渡り、魔力回路が超新星爆発のごとき出力を叩き出し始めた。



「……おい、いつまでそこで突っ立っているんだ!」



戻ってきたバルトが、俺の肩を乱暴に掴もうとする。 だが、その動きは俺の目には、止まっているのと同義だった。



バルトの手が俺の肩に触れた瞬間。 パァン! 乾いた音と共に、バルトの着ていた最高級の銀板鎧が、衝撃に耐えきれず粉々に砕け散った。



「なっ……!? な、何が起きた!?」



バルトが尻餅をつき、腰を抜かしている。 俺は彼に指一本触れていない。ただ、俺から溢れ出した「レベル999」の余剰魔圧が、彼の防具をゴミ同然に破壊しただけだ。



「……ああ、悪い。まだ出力の調整ができてなくて」



俺は自分の手を見つめた。 レベル1の「掃除係」が、今この瞬間、世界のパワーバランスを完全に破壊した。



「三日後だったな、魔王軍が来るのは」



俺は広場に落ちていた竹箒を拾い上げた。 今の俺なら、この箒一本で、空を埋め尽くす魔竜の群れすら塵にできる。



「掃除係の仕事だ。ゴミは、一つ残らず片付けさせてもらう」



死亡確定の運命? 破滅フラグ? そんなものは、圧倒的な暴力の前に跪かせてやる。 元廃課金ゲーマーの、容赦のない「効率的生存戦略」が今、幕を開けた。

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