第三章 レベル50と呪詛浄化①

翌朝。

美都は稽古場に立っていた。


儀式のために覚えた舞を繰り返す。

けれど所作の端々に、どうしてもぎこちなさが混じる。


心が、上の空だった。


(……どうして、止められなかったんだろう)


昨夜の抱擁。

耳に残る熱を帯びた声。

そして――あまりに真っ直ぐすぎる口づけ。


酒の勢いだったのか、それとも本気だったのか。

考え始めると頬が熱くなり、足運びがわずかに乱れる。


「美都?」


千夏の呼びかけに、私は慌てて笑みを作った。

けれど胸のざわめきは、すぐには引いてくれない。


「ごめん……寝不足でぼうっとしてた」

「そか……なら大丈夫だね」

「うん。間違えないか見てて」


もうすぐレベル50。

神泉苑での大事な儀式も控えている。


今は、それに集中しなきゃいけない。


――この儀式を成功させたら、皆との絆も深まるのだろうか。

そしたら自信を持って、静流さんに「頑張ったよ」って言える。


いつも支えてくれたあの人に、笑って胸を張れるように。


だから今は――

蓮さんへの胸のざわめきは、忘れよう。忘れなきゃ。



一方その頃。


蓮は廊下を歩きながら、己の拳を強く握りしめていた。


(……あんな強引なやり方。酔っていたとはいえ、彼女に嫌な思いをさせたのではないか……)


浮名を流すと揶揄されるこの私が――なんと無様なことだろう。

自嘲の息が漏れる。


(だが……あの言葉も、交わした口付けも……決して浮ついたものではない。本心なのだ)


思い返すたび、後悔と焦燥が交互に胸を叩く。

彼女が露骨な拒絶を見せなかったことが、せめてもの救い――

いや、それこそが余計に心を乱した。


気がつけば、いつもの余裕など欠片もない。

全く、らしくない。


……巫女殿に振り回されている。

この私が。



「藤原様、祓会のお時間です。お集まりください」

「ああ、今行くよ」


集まった公家たちの前で、蓮は表情を整えた。

感情は覆う。四神は“駒”ではないが、今は“役割”が先だ。


上座にいる年嵩の公家が、低く問う。


「藤原殿。巫女のレベルは、五十を超えたかね?」

「明日には到達される見込みです」

「そうか。それなら神泉苑での儀式に支障はなさそうだ」


蓮は一拍置いて、静かに答えた。


「はい。巫女殿の力は十分です」


別の者が、念を押すように言う。


「ただ……呪詛の解除で巫女の命に危険はないのだろうね?」

「勿論だ。だからこそ、ここまでレベル上げを急がせたのです」


「……そうでしたね。承知しました。準備を整えておきます」

「ああ、任せたよ」


儀式のため。巫女を守るため。

そう信じて、彼女を急かし、時に傷つけもした。


強くなれば守れる。そう思っていたから。


――けれど、その信念の裏に潜む“真の代償”。

そして、呪詛解除が意味する“契約”の重さに。


まだ誰も、気づいていなかった。

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