第三章 レベル50と呪詛浄化①
翌朝。
美都は稽古場に立っていた。
儀式のために覚えた舞を繰り返す。
けれど所作の端々に、どうしてもぎこちなさが混じる。
心が、上の空だった。
(……どうして、止められなかったんだろう)
昨夜の抱擁。
耳に残る熱を帯びた声。
そして――あまりに真っ直ぐすぎる口づけ。
酒の勢いだったのか、それとも本気だったのか。
考え始めると頬が熱くなり、足運びがわずかに乱れる。
「美都?」
千夏の呼びかけに、私は慌てて笑みを作った。
けれど胸のざわめきは、すぐには引いてくれない。
「ごめん……寝不足でぼうっとしてた」
「そか……なら大丈夫だね」
「うん。間違えないか見てて」
もうすぐレベル50。
神泉苑での大事な儀式も控えている。
今は、それに集中しなきゃいけない。
――この儀式を成功させたら、皆との絆も深まるのだろうか。
そしたら自信を持って、静流さんに「頑張ったよ」って言える。
いつも支えてくれたあの人に、笑って胸を張れるように。
だから今は――
蓮さんへの胸のざわめきは、忘れよう。忘れなきゃ。
◆
一方その頃。
蓮は廊下を歩きながら、己の拳を強く握りしめていた。
(……あんな強引なやり方。酔っていたとはいえ、彼女に嫌な思いをさせたのではないか……)
浮名を流すと揶揄されるこの私が――なんと無様なことだろう。
自嘲の息が漏れる。
(だが……あの言葉も、交わした口付けも……決して浮ついたものではない。本心なのだ)
思い返すたび、後悔と焦燥が交互に胸を叩く。
彼女が露骨な拒絶を見せなかったことが、せめてもの救い――
いや、それこそが余計に心を乱した。
気がつけば、いつもの余裕など欠片もない。
全く、らしくない。
……巫女殿に振り回されている。
この私が。
◆
「藤原様、祓会のお時間です。お集まりください」
「ああ、今行くよ」
集まった公家たちの前で、蓮は表情を整えた。
感情は覆う。四神は“駒”ではないが、今は“役割”が先だ。
上座にいる年嵩の公家が、低く問う。
「藤原殿。巫女のレベルは、五十を超えたかね?」
「明日には到達される見込みです」
「そうか。それなら神泉苑での儀式に支障はなさそうだ」
蓮は一拍置いて、静かに答えた。
「はい。巫女殿の力は十分です」
別の者が、念を押すように言う。
「ただ……呪詛の解除で巫女の命に危険はないのだろうね?」
「勿論だ。だからこそ、ここまでレベル上げを急がせたのです」
「……そうでしたね。承知しました。準備を整えておきます」
「ああ、任せたよ」
儀式のため。巫女を守るため。
そう信じて、彼女を急かし、時に傷つけもした。
強くなれば守れる。そう思っていたから。
――けれど、その信念の裏に潜む“真の代償”。
そして、呪詛解除が意味する“契約”の重さに。
まだ誰も、気づいていなかった。
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