第二章 乙女ゲームなのに修行とは?④
「封印技が使えるようになったら、レベル二十くらいまで上げたいね」
千夏が地図を広げ、指で場所を示す。
「この辺り、怨霊のレベルが低いの。ここを周回すれば、すぐ上がるよ」
「なるほど……」
「千夏殿は、怨霊の強さまで把握できるのですか?
月景が感心したように尋ねる。
「まぁ、ゲーム――うぐっ」
千夏が言い切る前に、私は慌てて口を塞いだ。
「こう見えて千夏は、特殊な能力を持ってるみたいで」
「なるほど。素晴らしい力ですね。敵の属性まで分かるなら助かります」
「ケガも治してくれるしな」
道真とリトの称賛に、私は苦笑いしか返せない。
(うん。私もそう思う。千夏の方が“それっぽい”。)
……だから、つい口を滑らせた。
「……提案なんですが。本当に巫女交代しません?
私がサポートに回りたいです!」
その瞬間、一同が息を呑んだ。
そして――手のひらが、じわりと熱くなった。
(な、なに。今の、反応……?)
空気を破ったのは蓮だった。
「巫女に選ばれたのは君なんだ。焦らないでいい」
柔らかい声音。けれど、逃げ道を塞ぐみたいな優しさ。
「でも、ぶっちゃけ千夏が巫女の方がしっくりくるんだけどなぁ」
リトが軽く言った瞬間、月景の視線が鋭くなる。
「リト。巫女殿に失礼ですよ。誰だって初めから強いわけではありません」
「チッ……悪かったよ」
険悪になりかけた空気に、私は慌てて手を振った。
「大丈夫、気にしてないから。
……たくさんご迷惑かけますけど、明日からもよろしくお願いします」
そう言って、深々と頭を下げた。
(気にしてない、は嘘だ。でも、ここで折れたら本当に終わる。)
◆
夜。
布団に入っても眠れず、天井を見つめていた。
「どうして私が巫女に選ばれたんだろう……」
四神たちも、心のどこかでそう思っているに違いない。
優しい言葉で気を遣われるほど、胸が痛む。
惨めだ。
千夏に嫉妬しているわけじゃない。
ただ、自分のふがいなさが情けない。
蝋燭の明かりが揺れる廊下に出て、膝を抱えた。
夜空には星が美しく瞬き、滲む視界にぽたりと涙が落ちる。
「こんなところにいたら、風邪をひいてしまうよ」
ふいに声がして、肩に温かな着物がかけられた。
振り返ると、蓮が柔らかく微笑んで立っていた。
「どうして……?」
「ああ、昼間の巫女殿の様子が気になったからね」
隣に腰を下ろされる。距離が近い。
香の匂いが、ふわりと混じった。
(……ああ、これが乙女ゲー仕様ってやつだろうか。
もしかして私、蓮さんルートに片足突っ込んでる?)
千夏なら「キタコレ!イベントスチル!」って叫ぶんだろうな。
そう思ったら、少しだけ笑えてしまった。
「蓮さん、ありがとうございます。もう大丈夫です」
「そうかい? 私としては、巫女殿との逢瀬をもう少し楽しみたいけれど」
「そういうのは他の女性にしてください。リップサービスは要りませんから」
言ってしまってから(言い過ぎたかな)と少しだけ思う。
けど、今の私は優しさを“本気”と勘違いできるほど器用じゃない。
「……つれないね」
蓮は困ったように笑った。
それが演技なのか、本音なのか。私には分からない。
私は立ち上がり、着物を肩に戻しながら言う。
「また明日から頑張ります」
頭を下げて歩き出す。
背中に視線を感じた気がしたけれど、振り返らなかった。
(頑張る。ちゃんと巫女として、役に立つ。)
◆
翌朝。
寝起きの朦朧とした頭で、何となく口にした。
「……ステータス、オープン」
浮かび上がった画面を見て、私は悲鳴を上げた。
「ちょっ、待って!?
蓮の愛情度が“10%”に跳ね上がってるんだけど!!」
隣で千夏が、布団の中からガバッと起き上がる。
「えっ、なになに!? イベント踏んだ!? スチルあった!?」
「静かにして! ていうか私、何もしてないのに!」
「最高じゃん! 無自覚好感度上げ、乙女ゲーの王道だよ!」
「王道いらない! 私はモブでいたいの!!」
……私の巫女生活は、今日も平和にカオスだった。
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