第二章 乙女ゲームなのに修行とは?③
そうして、美都の本当の修行が幕を開けた――。
……が、初日でいきなり躓いた。
まず最初にぶつかったのは「陰陽五行」。
木が土に強い?
金は火に弱い?
いやいや、もはや九九より難しい。
頭の中は見事にこんがらがり、苦手な数学の授業みたいに目が泳ぐ。
(もう、四神に属性ハチマキでも巻いてもらうか?
むしろ背中に“相性表”プリントしてほしい!)
◆
皆が引き上げたあと、千夏に“世界の仕様”を改めて聞いていた。
「千夏はすごいよなぁ……これ、マスターしたんでしょ?」
「月景さんへの愛のパワーは、苦手を凌駕するのよ。んふっ」
頬に手を当てて得意げに微笑む千夏。
「ねー、やっぱり巫女交代しようよ。絶対その方が早い気がする」
「んー。でも巫女に選ばれたのは美都だし、私は月景さんを支える妻でありたいの」
「いつ嫁になったんだよ!」
「出会った瞬間かな」
(こいつ、絶対前世で乙女ゲーのラスボスだっただろ……)
「まぁ札は“属性合わせ”がコツだから。それだけは頑張って覚えてね。
あと、戦闘を重ねると巫女と四神のレベルが上がる仕様。
場数が正義!レベルが上がると“共闘技”とかも開放されるし」
「乙女ゲーとは!?」
「で、封印は必須。浄化だけじゃ、すぐに復活しちゃうから」
「ホントに乙女ゲーにそんな戦闘属性持たせた運営、出てこい!!」
美都は大きく項垂れた。
(私、もう既に挫折しそう……)
◆
「ねぇ、美都。アレできないかな?」
「アレ?」
「ほら、異世界召喚ものによくある“ステータス”」
「ああ……“ステータスオープン”ってやつ?」
何気なく口にした瞬間――
ブォンッ、と低い音がして、アクリル板みたいな画面が目の前に浮かび上がった。
「キタコレ! これだよ!」
「千夏、鼻息荒い! ……って、本当に出たし!」
恐る恐る覗き込むと――
巫女レベル:2
属性:土
浄化:1
封印:1
癒し:0
使用可能:なし
「ひっく!」
「まぁ、まだチュートリアル直後だから」
さらに視線を動かすと、四神それぞれの名前の横に数字が並んでいた。
「……これ何」
「あー、それ信頼度と恋愛度ね」
「信頼度……月景2、リト2、道真2、蓮1。……しょっぱい!」
「でも恋愛度は蓮さんだけ2だよ」
「……全然嬉しくないんだけど」
スン、とした顔で呟く私に、千夏が当然みたいに言う。
「最初はこんなもんよ。
ここから数値上げて攻略対象を落とすのが楽しいの」
「乙女ゲーとは……」
その勢いのまま千夏も唱える。
「ステータスオープン!」
隣にもうひとつ画面が開いた。
(近藤千夏)
表示:サポート(理論値)
レベル:50
属性:金
浄化:50
封印:50
癒し:50
使用可能:治癒/遁甲
「……え、凄。もう千夏でいいじゃん! マジで!」
「だからこれは“知識が反映されただけ”。
私に巫女権限はないの。
封印も、実戦じゃ発動しないはず」
「理論値とか言われても、私のカスさが際立つんだけど!?」
私は画面を指差して震える。
「てか“遁甲”」
「おい……それ不埒な方向に使うなよ?」
「え? 月景さんの寝顔をこっそり覗くとか思ってないからね」
「思ってるんだな!? 理解したわ!」
(……なんで私が巫女で、千夏がサポートなんだろ。謎すぎる)
横で月景の“千夏への恋愛度”に絶望している千夏を見ながら、
私は密かに拳を握った。
「皆の足手まといにだけは、なりたくない」
◆
次の日の午後。
怨霊出現の報が入った。
四神と共に町へ駆けつけると、黒い霧が広がり、呻き声が響いている。
人々は恐怖に顔を歪め、逃げ惑っていた。
「うわ……新手のグロ来たわ……」
地から這い出る黒い影の群れに、背筋が凍る。
「参る!」
月景の合図とともに、四神が一斉に力を解き放つ。
炎が闇を焼き、氷の矢が影を砕き、風が瘴気を裂き、刀が黒を両断する。
(ゲーム画面の向こうなら、こんな怖い思いしないのに……)
「美都! 今の敵は土属性! 木の護符だよ!」
千夏の助言に従って札を放つ。
――当たった瞬間、怨霊の動きが鈍った。
黒い霧が、嫌そうに引く。
「すご……効いた!」
「いいね! 次は木属性! 金の護符!」
ほっとした、その刹那。
怨霊の爪が、私を狙った。
「――っ!」
「巫女殿! 危ない!」
蓮が飛び込み、扇で受け止める。
刃のような爪が、腕を裂いた。血が滲む。
「蓮さん!!」
その光景に、胸の奥で何かが弾けた。
(私のせいだ。私が、遅いから――)
「もう……ポンコツ過ぎるぞ私! 気合い入れろー!」
札が強烈な光を放ち、足元に光陣が浮かび上がる。
浄化の波が町を走り、怨霊たちが次々と縫い止められていく。
自然に口が動いた。
「――封印ッ!」
護符が矢となり、怨霊を光の鎖で縛り上げる。
呻き声が途切れ、黒い影が霧散した。
静寂が戻る町。
私は膝をつき、震える手を見つめた。
「これが……封じる力?」
四神たちは互いに目を見交わし、真剣に頷く。
「……巫女殿。大丈夫かい」
「蓮さん、怪我は!?」
蓮はいつものように妖艶に微笑んだが、額には冷や汗が滲んでいた。
「大したことないよ。女性を守るのは男の務めだからね」
「そんなこと言ってる場合じゃ――」
「ごめんなさい……もっと頑張る。強くなるから……」
涙声で告げると、蓮は優しい眼差しで頭に手を置いた。
「ならば私たちも強くならなければいけないね。
巫女殿にそんな顔をさせないためにも」
「僕たちも力を尽くしましょう」
「チッ。まぁ今日は上出来だったぜ」
「頑張ったな、巫女殿」
四神たちの言葉が、胸に温かく響く。
――その横で千夏が涙目になりながらスマホを探す仕草をした。
「うわぁ……覚醒&封印イベント! スチル解禁!
……って、スクショできないの辛すぎる!」
「今は黙れ千夏! てか治癒使えたよね!? 蓮さんの怪我治して!」
「あー、そうだったわ! 蓮さん、怪我見せて!」
千夏が蓮の腕に手をかざす。
柔らかな光が溢れ、傷がすっと消えた。
「千夏すげーな! 傷が消えたぜ!」
「これは助かりますね」
「千夏殿、ありがとう。痛みが消えたよ」
「千夏殿も巫女の資質があるんだな」
褒め称える声の輪の中で、胸の奥がズキリと痛んだ。
(……やっぱり、千夏の方がふさわしいんじゃ……)
そう思った瞬間、手のひらが――じわりと熱を持つ。
まるで「違う」と言われたみたいに。
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