第二章 乙女ゲームなのに修行とは?③

そうして、美都の本当の修行が幕を開けた――。


……が、初日でいきなり躓いた。


まず最初にぶつかったのは「陰陽五行」。


木が土に強い? 

金は火に弱い?

いやいや、もはや九九より難しい。


頭の中は見事にこんがらがり、苦手な数学の授業みたいに目が泳ぐ。


(もう、四神に属性ハチマキでも巻いてもらうか?

 むしろ背中に“相性表”プリントしてほしい!)



皆が引き上げたあと、千夏に“世界の仕様”を改めて聞いていた。


「千夏はすごいよなぁ……これ、マスターしたんでしょ?」

「月景さんへの愛のパワーは、苦手を凌駕するのよ。んふっ」


頬に手を当てて得意げに微笑む千夏。


「ねー、やっぱり巫女交代しようよ。絶対その方が早い気がする」

「んー。でも巫女に選ばれたのは美都だし、私は月景さんを支える妻でありたいの」

「いつ嫁になったんだよ!」

「出会った瞬間かな」


(こいつ、絶対前世で乙女ゲーのラスボスだっただろ……)


「まぁ札は“属性合わせ”がコツだから。それだけは頑張って覚えてね。

 あと、戦闘を重ねると巫女と四神のレベルが上がる仕様。

 場数が正義!レベルが上がると“共闘技”とかも開放されるし」


「乙女ゲーとは!?」


「で、封印は必須。浄化だけじゃ、すぐに復活しちゃうから」

「ホントに乙女ゲーにそんな戦闘属性持たせた運営、出てこい!!」


美都は大きく項垂れた。


(私、もう既に挫折しそう……)



「ねぇ、美都。アレできないかな?」

「アレ?」

「ほら、異世界召喚ものによくある“ステータス”」

「ああ……“ステータスオープン”ってやつ?」


何気なく口にした瞬間――


ブォンッ、と低い音がして、アクリル板みたいな画面が目の前に浮かび上がった。


「キタコレ! これだよ!」

「千夏、鼻息荒い! ……って、本当に出たし!」


恐る恐る覗き込むと――


巫女レベル:2

属性:土

浄化:1

封印:1

癒し:0

使用可能:なし


「ひっく!」

「まぁ、まだチュートリアル直後だから」


さらに視線を動かすと、四神それぞれの名前の横に数字が並んでいた。


「……これ何」

「あー、それ信頼度と恋愛度ね」

「信頼度……月景2、リト2、道真2、蓮1。……しょっぱい!」

「でも恋愛度は蓮さんだけ2だよ」

「……全然嬉しくないんだけど」


スン、とした顔で呟く私に、千夏が当然みたいに言う。


「最初はこんなもんよ。

ここから数値上げて攻略対象を落とすのが楽しいの」


「乙女ゲーとは……」


その勢いのまま千夏も唱える。


「ステータスオープン!」


隣にもうひとつ画面が開いた。


(近藤千夏)

表示:サポート(理論値)

レベル:50

属性:金

浄化:50

封印:50

癒し:50

使用可能:治癒/遁甲


「……え、凄。もう千夏でいいじゃん! マジで!」


「だからこれは“知識が反映されただけ”。

私に巫女権限はないの。

封印も、実戦じゃ発動しないはず」


「理論値とか言われても、私のカスさが際立つんだけど!?」


私は画面を指差して震える。


「てか“遁甲”」


「おい……それ不埒な方向に使うなよ?」

「え? 月景さんの寝顔をこっそり覗くとか思ってないからね」

「思ってるんだな!? 理解したわ!」


(……なんで私が巫女で、千夏がサポートなんだろ。謎すぎる)


横で月景の“千夏への恋愛度”に絶望している千夏を見ながら、

私は密かに拳を握った。


「皆の足手まといにだけは、なりたくない」



次の日の午後。

怨霊出現の報が入った。


四神と共に町へ駆けつけると、黒い霧が広がり、呻き声が響いている。

人々は恐怖に顔を歪め、逃げ惑っていた。


「うわ……新手のグロ来たわ……」


地から這い出る黒い影の群れに、背筋が凍る。


「参る!」


月景の合図とともに、四神が一斉に力を解き放つ。

炎が闇を焼き、氷の矢が影を砕き、風が瘴気を裂き、刀が黒を両断する。


(ゲーム画面の向こうなら、こんな怖い思いしないのに……)


「美都! 今の敵は土属性! 木の護符だよ!」


千夏の助言に従って札を放つ。


――当たった瞬間、怨霊の動きが鈍った。

黒い霧が、嫌そうに引く。


「すご……効いた!」

「いいね! 次は木属性! 金の護符!」


ほっとした、その刹那。


怨霊の爪が、私を狙った。


「――っ!」


「巫女殿! 危ない!」


蓮が飛び込み、扇で受け止める。

刃のような爪が、腕を裂いた。血が滲む。


「蓮さん!!」


その光景に、胸の奥で何かが弾けた。


(私のせいだ。私が、遅いから――)


「もう……ポンコツ過ぎるぞ私! 気合い入れろー!」


札が強烈な光を放ち、足元に光陣が浮かび上がる。

浄化の波が町を走り、怨霊たちが次々と縫い止められていく。


自然に口が動いた。


「――封印ッ!」


護符が矢となり、怨霊を光の鎖で縛り上げる。

呻き声が途切れ、黒い影が霧散した。


静寂が戻る町。


私は膝をつき、震える手を見つめた。


「これが……封じる力?」


四神たちは互いに目を見交わし、真剣に頷く。


「……巫女殿。大丈夫かい」

「蓮さん、怪我は!?」


蓮はいつものように妖艶に微笑んだが、額には冷や汗が滲んでいた。


「大したことないよ。女性を守るのは男の務めだからね」

「そんなこと言ってる場合じゃ――」


「ごめんなさい……もっと頑張る。強くなるから……」


涙声で告げると、蓮は優しい眼差しで頭に手を置いた。


「ならば私たちも強くならなければいけないね。

 巫女殿にそんな顔をさせないためにも」


「僕たちも力を尽くしましょう」

「チッ。まぁ今日は上出来だったぜ」

「頑張ったな、巫女殿」


四神たちの言葉が、胸に温かく響く。


――その横で千夏が涙目になりながらスマホを探す仕草をした。


「うわぁ……覚醒&封印イベント! スチル解禁!

 ……って、スクショできないの辛すぎる!」

「今は黙れ千夏! てか治癒使えたよね!? 蓮さんの怪我治して!」

「あー、そうだったわ! 蓮さん、怪我見せて!」


千夏が蓮の腕に手をかざす。

柔らかな光が溢れ、傷がすっと消えた。


「千夏すげーな! 傷が消えたぜ!」

「これは助かりますね」

「千夏殿、ありがとう。痛みが消えたよ」

「千夏殿も巫女の資質があるんだな」


褒め称える声の輪の中で、胸の奥がズキリと痛んだ。


(……やっぱり、千夏の方がふさわしいんじゃ……)


そう思った瞬間、手のひらが――じわりと熱を持つ。


まるで「違う」と言われたみたいに。

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