第二章 乙女ゲームなのに修行とは?①

小鳥のさえずりで目が覚めた。

「……ん? ここどこ?」


見慣れない部屋で迎える朝。

寝ぼけた頭が一瞬フリーズして

――次の瞬間、昨日の出来事が脳内でフラッシュバックする。


――そうだ。異世界召喚されたんだ。


反射的に手のひらを見る。

昨夜、熱を持った場所が、まだほんのり温かい。


(夢じゃない。うん、知ってたけど……認めたくない)


勢いよく起き上がると、隣には幸せそうに枕を抱きしめて眠る千夏がいた。


「……呑気だよなぁ。まぁ、それが救いでもあるけど」


渡り廊下に出ると、視界いっぱいに広がる和風庭園。

池、赤い橋、手入れの行き届いた松。

“雅”という言葉がぴったりで、思わず息をのむ。高級旅館どころじゃない。


「巫女様、お目覚めでございますか? 

お召し物とお食事のご用意ができております」


女房――たぶんこの世界の“メイドさん”ポジション――がにっこりと微笑んだ。


(巫女様……。その呼び方、重いんですけど)


美都と千夏には、動きやすいよう仕立てられた“着物モドキ”が用意されている。帯は簡略化されていて、袖も短め。走れる仕様。


……走らされる未来が見える。


「キタコレ! ヒロインコスプレ!」


千夏は大はしゃぎ。

しゃべらなければ完璧ヒロインなのに、残念さが滲み出る。


一方の私は「着せられた感」しかなく、鏡の前でため息をついた。


(なるほど、これが顔面偏差値の暴力か……)



朝食は精進料理風の和食。

湯気の立つ味噌汁に、焼き魚、炊きたてのご飯。


「ご飯が神イベント……」


千夏が頬を押さえて恍惚の表情を浮かべる。


(これが旅行だったら、どれだけ幸せだったか……)


ちらりと後方に視線を向ければ、いつの間にか四神がずらりと揃っていた。

登場タイミングが完璧すぎて、まるでゲームのスチル演出みたいだ。


「はい。本日から巫女殿の修行を始めます!」


道真が眼鏡を光らせ、バサァッと巻物を広げる。


「呪文、護符の扱い、浄化の舞……まずは基礎理論の講義からですね」

「講義!? 授業形式!?」

「はい。三時間、みっちり座学です」

「長っっっ!!」


逃げ道はありません、みたいな顔をしている。怖い。


リトが床にドカッと座り、腕を組んで不満げに呟いた。

「なぁ、座学とか退屈だろ。実戦行こうぜー」

「いやいや! 基礎なしで戦場とか、死ぬ未来しか見えないけど?」

「チッ、巫女は心配性だなぁ」

「心配性じゃなくて普通! 丸腰で熊と戦える!?」


「リト、巫女殿は何も知らずに召喚されたんだ。無理を言ってはいけないよ?」


蓮がやけに優しい声を出したかと思ったら――すっと距離を詰めてくる。


「……でも、疲れたら肩でも揉んであげるからね?」

「お色気担当は下がっててください!!」

「つれないね。ふふ」


四神と巫女の、まるで漫才みたいなやり取り。

その様子を眺めながら、千夏は目をキラキラさせていた。

対照的に、月景は深いため息を吐く。


――その時。


「月景様! 町に怨霊が!」


女房が飛び込んでくるや否や、リトがニヤリと笑った。

「よっしゃ、出番きたな!」


気づけば、私の腕をがっちり掴んでいる。


「いやいやいや! まだ私、筆すら握ってないんですけど!?」


抗議した瞬間、手のひらが――また、熱を持った。

さっきより強い。脈打つみたいに、じわりと。


(……来る。これ、来るやつだ)

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