第二章 乙女ゲームなのに修行とは?①
小鳥のさえずりで目が覚めた。
「……ん? ここどこ?」
見慣れない部屋で迎える朝。
寝ぼけた頭が一瞬フリーズして
――次の瞬間、昨日の出来事が脳内でフラッシュバックする。
――そうだ。異世界召喚されたんだ。
反射的に手のひらを見る。
昨夜、熱を持った場所が、まだほんのり温かい。
(夢じゃない。うん、知ってたけど……認めたくない)
勢いよく起き上がると、隣には幸せそうに枕を抱きしめて眠る千夏がいた。
「……呑気だよなぁ。まぁ、それが救いでもあるけど」
渡り廊下に出ると、視界いっぱいに広がる和風庭園。
池、赤い橋、手入れの行き届いた松。
“雅”という言葉がぴったりで、思わず息をのむ。高級旅館どころじゃない。
「巫女様、お目覚めでございますか?
お召し物とお食事のご用意ができております」
女房――たぶんこの世界の“メイドさん”ポジション――がにっこりと微笑んだ。
(巫女様……。その呼び方、重いんですけど)
美都と千夏には、動きやすいよう仕立てられた“着物モドキ”が用意されている。帯は簡略化されていて、袖も短め。走れる仕様。
……走らされる未来が見える。
「キタコレ! ヒロインコスプレ!」
千夏は大はしゃぎ。
しゃべらなければ完璧ヒロインなのに、残念さが滲み出る。
一方の私は「着せられた感」しかなく、鏡の前でため息をついた。
(なるほど、これが顔面偏差値の暴力か……)
◆
朝食は精進料理風の和食。
湯気の立つ味噌汁に、焼き魚、炊きたてのご飯。
「ご飯が神イベント……」
千夏が頬を押さえて恍惚の表情を浮かべる。
(これが旅行だったら、どれだけ幸せだったか……)
ちらりと後方に視線を向ければ、いつの間にか四神がずらりと揃っていた。
登場タイミングが完璧すぎて、まるでゲームのスチル演出みたいだ。
「はい。本日から巫女殿の修行を始めます!」
道真が眼鏡を光らせ、バサァッと巻物を広げる。
「呪文、護符の扱い、浄化の舞……まずは基礎理論の講義からですね」
「講義!? 授業形式!?」
「はい。三時間、みっちり座学です」
「長っっっ!!」
逃げ道はありません、みたいな顔をしている。怖い。
リトが床にドカッと座り、腕を組んで不満げに呟いた。
「なぁ、座学とか退屈だろ。実戦行こうぜー」
「いやいや! 基礎なしで戦場とか、死ぬ未来しか見えないけど?」
「チッ、巫女は心配性だなぁ」
「心配性じゃなくて普通! 丸腰で熊と戦える!?」
「リト、巫女殿は何も知らずに召喚されたんだ。無理を言ってはいけないよ?」
蓮がやけに優しい声を出したかと思ったら――すっと距離を詰めてくる。
「……でも、疲れたら肩でも揉んであげるからね?」
「お色気担当は下がっててください!!」
「つれないね。ふふ」
四神と巫女の、まるで漫才みたいなやり取り。
その様子を眺めながら、千夏は目をキラキラさせていた。
対照的に、月景は深いため息を吐く。
――その時。
「月景様! 町に怨霊が!」
女房が飛び込んでくるや否や、リトがニヤリと笑った。
「よっしゃ、出番きたな!」
気づけば、私の腕をがっちり掴んでいる。
「いやいやいや! まだ私、筆すら握ってないんですけど!?」
抗議した瞬間、手のひらが――また、熱を持った。
さっきより強い。脈打つみたいに、じわりと。
(……来る。これ、来るやつだ)
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