第4話

結婚してからすぐに私は妊娠を知った。彼もすごく喜んでくれて、これ以上ない幸せに包まれていた。


でも幸せとは、どうしてか長くは続かないものなのだ。



「ごめんなさい…。」


「君が謝ることじゃないよ…。残念だったねほんとに」

とても悔しそうに、でも優しく彼が言う。


流産したのだ。そしてそれをきっかけに、私は子どもを産めない体になってしまった。


やり場のない悲しみに何度も襲われる。

少し膨らんでいたお腹は、もう平になってしまった。

あぁ…もうここにあの子は居ないんだ。

そう思うと寂しさで狂いそうになる。


「コーヒーいれたよ、一緒に飲もう。おいで」

そう彼が優しく言ってくれるけど、コーヒーもう飲んでもいいんだ。

そう思うとまた悲しみが込み上げてくる。


「いつまでも落ち込んでると君の身体にもよくないよ」


「おいで、一緒に眠ろう」


「天気がいいから散歩にでよう」


「君が好きなプリン買ってきたよ」


彼の優しい言葉にも、私は返事ができなかった。

そして彼は「僕だって、君と同じように辛いんだよ」と言い。

だんだん彼との間に距離ができ、彼は私に触れようともしなくなり、帰りもどんどん遅くなっていく。



ピピっと腕時計が0:00を知らせたが、彼はまだ帰ってこない。

あ、今日はバレンタインだ。

何も用意してないな、朝になったらチョコレート買いに行こうかな。

そう思いながらリビングのソファで眠ってしまっていた。



翌朝、朝食を作っていると、彼がバタバタと帰ってくるなり

「すまない、好きな人ができたんだ。別れて欲しい」と言ってきた。


「え、何?どういう事?」


朝食を作る手が止まる。


「彼女に、子どもができたんだ…君とはもう居られない。家族ができるんだ、彼女と子どもを大切にしたい」



彼は何を言っているのだろう…。


「嫌、嫌よそんなこと…嫌!絶対嫌!どうしてよ どうして私以外の女と家族をつくるのよ!信じられない。こんな…ひどすぎるわ…こんな…こんなのって……」


「ほんとにすまない」


「すまない?すまないですって?」


「君には悪いとは思ってる。でも僕が居たって君を幸せにはしてあげれないだろ?」


「そんな事……」


「もう、出ていくよ」


「だめよ!行かせない他の女のところになんて行かせない!私を置いていくなんて絶対に許さないっ!」


咄嗟に彼に思い切り体当たりをすると、彼の顔が苦しそうに歪んだ。


彼が腹部を押さえる手を見ると、服がじわじわと赤くなっきていた。

私の手には包丁が握られている。

これは、血だ……。


再び彼の顔を見て、私は握ったままの包丁を、彼の腹部目掛けて振り下ろした。

何度も、何度も、何度も。

私は一心不乱だった。


だって、だって、あんなにも毎日が幸せだったのよ?

ずっと上手くいっていたのよ?

どうして?どうして赤ちゃんは私のお腹から消えてしまったの?

どうして彼は私から去っていこうとするの?

どうして?なんで?


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