短編

三つの叱り方 ――同じ姫、違う守り


◆ 月華の場合 ――正しさで逃がさない


桜花は、またやった。


庭の端に積まれていた訓練用の木札を、

勝手に並べ替えた。


「……桜花」


名前を呼ばれた瞬間、

桜花は身体を強張らせる。


月華は、怒鳴らない。

歩み寄らない。


ただ、止まる場所を奪う。


「それは、何のためにある」


「……れんしゅう」


「誰のものだ」


「……みんなの」


「なら、なぜ触った」


逃げ道が、ない。


桜花は、黙り込む。


月華は、静かに言う。


「分からないなら、触るな」

「触ったなら、戻せ」


それだけ。


桜花は、黙って木札を戻した。


涙は、出なかった。


月華の叱りは、

正しさそのものだった。


◆ 風翔の場合 ――怖がらせないように止める


その翌日。


桜花は、廊下を走った。


「だめだって言ったでしょー」


風翔が、前に出る。


「はい、捕獲〜」


抱え上げられて、くるっと向きを変えられる。


「走ると転ぶ」

「転ぶと泣く」

「泣くと、げっかが怖くなる」


桜花は、くすっと笑ってしまう。


「……わざとじゃないもん」


「うん、知ってる」


風翔は、視線を合わせて言う。


「だから次は、走らない」

「それでいい」


叱りは、短い。


怖さは、残さない。


風翔の叱りは、

止めるための優しさだった。


◆ 氷月の場合 ――一言で刺す


そのまた翌日。


桜花は、氷月のサークレットを勝手に触った。


「……触るな」


即答。


声は低い。


「それ、危ない?」


「危ない」


「……どれくらい?」


氷月は、少し考えてから言った。


「死ぬ」


間。


桜花は、固まった。


「……もうしない」


「賢い」


それだけ。


氷月は、それ以上何も言わなかった。


氷月の叱りは、

事実だけだった。


 ♦︎桜花の中で


その夜。


桜花は、布団の中で考えた。


月華は、逃がさない。

風翔は、怖がらせない。

氷月は、はっきり言う。


(……みんな、ちがう)


でも。


(……みんな、さくらを、まもってる)


だから。


桜花は、次の日から、少しだけ考えてから動くようになった。


「これ、さわっていい?」


そう聞くようになった。


三人衆は、顔を見合わせる。


月華は、短く頷く。

風翔は、笑う。

氷月は、ため息をつく。


――それで、よかった。


叱り方は違う。

守り方も違う。


それでも、

三人衆の答えは、同じだった。


「ここにいていい」

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異能三人衆に囲まれて、少女は今日も笑う 神明紅葉 @kurehasinmei

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