番外編

番外編


「悪戯禁止令(なお守られない)」


朝。


月宮邸の一室に、

珍しく全員が揃っていた。


月城綾人。

月華。

風翔。

氷月。


そして、

畳の真ん中に正座する――

桜花(おうか)。



■ 悪戯禁止令、発令


「……桜花」


綾人が、少しだけ改まった声で言う。


「悪戯が、少し度を越え始めている」


桜花は背筋をぴんと伸ばす。


「うん、あにさま」


素直。

だが信用できない。



月華が腕を組み、静かに続ける。


「悪戯そのものを否定するつもりはない」


「だが、結界や危険物に関わるものは禁止だ」


「わかった、げっか」


即答。



風翔が咳払いを一つ。


「あとだな、人が本気で驚くやつは禁止」


「心臓に悪い」


「はーい、たいちょー」


軽い。

軽すぎる。

氷月が淡々と結論を下す。


「総合判断」


「本日より、悪戯禁止令を発令する」


桜花、きょとん。


「……ぜんぶ?」


「全部だ」

四人、同時。



■ 桜花の反応


沈黙。


桜花はしばらく考え込み――


「……わかった」


あまりにも素直。


四人の脳裏に、

嫌な予感がよぎる。



■ 禁止令・破棄(午前九時半)


廊下。


風翔が足を止める。


「……ん?」


畳に貼られた紙。


『これは わるぎじゃない』


踏む。


ぱふっ


音だけ鳴る紙袋。


被害、ゼロ。


「……桜花?」


物陰から顔。


「いたずらじゃないよ、たいちょー」


「実験!」


「言い換えんな!」

■ 禁止令・破棄(午前十時)


月華が歩いていると、袖が重い。


中を見る。


紙の桜の花びらが、ぎっしり。


柱の影から。


「げっか、はな、にあう!」


「……これは悪戯だ」


「ちがうよ」


「装飾!」


月華、沈黙。



■ 禁止令・破棄(午前十時半)


氷月、結界調整中。


視界の端に札。


『ひづきさん は つよい』


次。


『だから だいじょうぶ』


次。


『こわくない』


次。


『たのしい』


「……心理誘導」


柱の影から。


「ねえ、ひづき」


「これ、いたずら?」


「……分類不能だ」



■ とどめ(正午)


書斎。


綾人が顔を上げる。


「……静かすぎる」


背後。


「えへへ、あにさま」


振り向くと、桜花が正座。


「報告です!」


「……何の」


「きょうの悪戯、まだしてません!」


「……?」


「だから!」


満面の笑み。


「いまから、するね!」

■ 会議(即)


四人、沈黙。


風翔が額を押さえる。


「……無理だな」


月華がため息。


「禁止は、桜花には不向きだ」


氷月、即断。


「制限付き許可が最適」


綾人、結論。


「――悪戯禁止令は、本日をもって破棄する」



■ 桜花の勝利


「やったー!」


桜花、万歳。


「じゃあね!」


「あにさまも!」

「たいちょーも!」

「げっかも!」

「ひづきも!」


「みんな、あそぶね!」


四人、同時に悟る。


――今日も平和では終わらない。

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