後編
崩れ落ちたコンクリートに囲まれ、絶叫と倒壊の音だけがくぐもって聞こえてくる。
学校近くの小さな公園に現れた人型の哀魔から逃げて駅前のカフェに飛び込んだのが数十分前。
突然視界が真っ白に光ったかと思ったらとてつもない轟音と共に建物が崩れ落ちて、いつの間にか建物の下敷きになっていた。
隣で伏せていた友達も、もう冷たくなり始めている。
カバンについたフクロウのストラップが、ゆらゆらと揺れて私のことを見ていた。
死にたくない。
まだこんな所で死にたくない。
やりたいことも、行ってみたいところもいっぱいある。
今日、夜に彼氏と電話をする予定だってある。
でも、どうもがいても瓦礫に挟まった脚が動かない。大声で助けを呼んでも、まるで届いているような気がしない。
嫌だ。死にたくない。死にたくない...
聞こえてくる悲鳴がサイレンの音に変わってきた時、パラパラと瓦礫が転がって頭に降りかかった。
顔を上げると、暗い空間に光が差し込んできていた。
フリフリのドレスを着たピンク髪の少女が、こちらを見ている。
「魔法少女........?」
煙に煽られて、ピンクのリボンが揺れた。
「た、助けて!と、隣に、と、友達も........!」
外はもう夜になっていて、少女の顔がはっきりとは見えなかった。
「ま、魔法少女なんだろ!助けて、助けてくれよ!」
まばたきの瞬間、魔法少女は目の前にしゃがみこんで、伏せる私を覗き込んだ。
顎に指先を添えて、私の目をじっと見る。やっぱり顔は暗くて見えない。
「!あ、ありが......」
言い切らないうちに、少女は指を離した。
そして、瓦礫の先の穴に戻っていった。
「...?」
何をしているのか、すぐには分からなかった。
ズズズ、と。彼女は、一度どけたはずの瓦礫をこちら側に押し込んでいた。
「な、なんで!助けてよ!魔法少女なんでしょ!?」
ゆっくり、ゆっくりと暗闇が空間を蝕む。訳が分からない。今この少女が何をしているのか、理解できない。
「嫌だ、なんで!助けて、助けて!」
涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにして、叫ぶ。
少女が瓦礫を動かすのは止まらず、差し込む光が小さくなっていく。
「嫌だ、嫌だ、嫌だ...」
その瞬間、光が反射して少女の顔が少し見えた。
柔らかくて優しい笑みに、全身の血の気が引いた。
─────────────────
「ただいま〜」
パチ、と、暗い部屋に明かりが灯る。
ご飯もお風呂も後回しにして、カバンだけ投げ捨ててベッドに仰向けに飛び込んだ。
ポケットをまさぐり、取り出したそれを光にかざす。
ひとつは、よく分からないドロドロに塗れた。
ひとつは、血と泥がこびりついた。
フクロウの形をしたキーホルダーが、ふたつ。
それを通して、ふたりの最期を思い返した。つい、口角が上がる。
起き上がって、机の引き出しからアルバムを取り出して広げた。
あのボランティアの時の子供たち一人一人との写真を始めに、何人かとのツーショットが収まっている。
カバンの中から写真を取り出して、写真が途切れた最後のページに新しく差し込んだ。
くろむちゃん見に行った映画の帰りに撮ったツーショットと、マリちゃんと一緒に帰るついでに寄った駅前のカフェでの写真。
私に縋る、私より下の人間。
勝手に変身しそうになるほど溢れる魔力を抑えて、心の穴から漏れ出るモノを感じた。
気持ちいい。
まさかたかが哀魔に遅れを取るなんて予定外だったが、これは結果オーライと言えるだろう。
柔らかくて優しい笑みを湛えて、私は満足感でいっぱいの眠りにつく。
まだ炎の見える窓の外で、フクロウが鳴いていた。
哀、渦巻いて、魔法少女。 夜噺 @youmu_yowashi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます