第11話「夜半の呼び声」

 夜は、深く静まっていた。


 焚き火は落ち、

 残るのは、赤い熾だけ。


 仲間たちは眠り、

 森の音だけが、かすかに続いている。


 カイは、眠れていなかった。


 目を閉じても、

 肩の傷が、じくじくと疼く。


カイ:(……また、か)


 嫌な予感が、

 胸の奥で、形を持つ。


 ――風が、吹いた。


 森の中だというのに、

 一定の流れではない。


 呼ぶような風。


カイ:「……誰だ」


 小さく、声に出した瞬間。


 視界が、反転した。


 夢。


 だが、

 前よりも、現実に近い。


 立っているのは、

 高台の上。


 見下ろす先には、

 雷雲が渦巻いている。


 空が、低い。


???:「……また、来たな」


 声。


 前より、近い。


カイ:「……あんたか」


???:「名を問うな」


 低く、だが拒絶ではない。


???:「今は、

     それを許されていない」


 カイは、

 拳を握る。


カイ:「俺に、

    何をさせたい」


 即座に、答えは来なかった。


 代わりに、

 雷が走る。


 その光の中で、

 “何か”が立っているのが、分かる。


 人の形。


 だが、

 人ではない。


???:「……お前は」


???:「立った」


???:「逃げなかった」


 白陽の夜。


 子どもの前に出た、あの瞬間。


カイ:「……偶然だ」


???:「違う」


 即答。


???:「偶然で、

     人は前に出られぬ」


 空気が、重くなる。


???:「問う」


???:「力を、

     受け取る覚悟はあるか」


 前よりも、

 はっきりとした問い。


カイ:「……その力で」


カイ:「誰かを、

    傷つけるなら」


 言葉を、選ぶ。


カイ:「俺は、

    いらない」


 雷鳴が、

 止んだ。


 静寂。


???:「……良い」


 低く、満足した声。


???:「その答えを、

     忘れるな」


 何かが、

 胸に触れる。


 熱。


 だが、

 飲み込まれない。


???:「次は」


???:「選ぶ時間は、

     ない」


 その言葉と同時に――

 世界が、崩れた。


 カイは、

 大きく息を吸って、目を開けた。


 夜。


 焚き火は、

 まだ、消えていない。


ミリア:「……カイ?」


 囁く声。


ミリアは起きていた。


ミリア:「今、

     すごく苦しそうだった」


カイ:「……夢を、見てた」


ミリア:「また?」


 頷く。


 少し離れた場所で、

 セリアが、静かに目を閉じている。


 眠っているように見える。


 だが――

 その指先が、わずかに震えた。


セリア:(……来てしまいましたね)


 心の中で、そう呟く。


 まだ、名は告げられていない。


 だが、

 扉は、確かに叩かれた。


 カイは、

 夜空を見上げる。


 雲の奥で、

 かすかに光るものがあった。


カイ:(……俺は)


カイ:(どこまで、

    行くんだ)


 答えは、まだない。


 だが、

 呼び声だけは――

 確かに、そこにあった。

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