第12話「朽鳥居に棲むもの」

 夜明けは、突然訪れた。


 霧が、山道を覆い、

 空の色を奪っていく。


 眠りの浅かったカイが、

 最初に気づいた。


カイ:「……起きろ」


 低い声。


 仲間たちが、次々と目を覚ます。


レオン:「んー……朝?」


ミリア:「……違う。

     これ、霧が濃すぎる」


 視界は、十歩先も見えない。


 静かすぎる朝だった。


 歩き始めて、ほどなく。


 霧の向こうに、

 朱色の影が浮かび上がる。


ミリア:「……鳥居?」


 朽ちかけた鳥居が、

 山道を塞ぐように立っていた。


 注連縄は切れ、

 木肌は黒ずんでいる。


 祀られていた“何か”は、

 もう、ここにはいない。


セリア:「……通らない方が、良いですね」


レオン:「でも、道はここだけだ」


 肩をすくめる。


レオン:「遠回りすると、

     日が暮れる」


 その瞬間。


 ぎちり、と音がした。


 鳥居の奥。


 霧の中から、

 “それ”が姿を現す。


 獣の体躯。


 だが、皮膚は裂け、

 中から骨が覗いている。


 顔には、

 割れた鬼の面。


 面の奥で、

 赤い目が光った。


ミリア:「……なに、あれ」


カイ:「……来る」


 地面が、震えた。


 異形の獣が、

 低く唸り、前脚を踏み出す。


 鳥居に縛られ、

 祀られ、忘れられた存在。


 神ではない。


 だが、

 神に触れてしまった成れの果て。


レオン:「なるほど」


 剣を抜く。


レオン:「影より分かりやすいな」


 軽口。


 だが、

 目は笑っていない。


 獣が、跳んだ。


カイ:「――っ!」


 反射的に前に出る。


 肩の傷が、

 焼けるように疼く。


 だが、

 体は動いた。


 刃を受け止める。


 重い。


 骨と爪がぶつかり、

 火花が散る。


ミリア:「カイ、下がって!」


 術を放つ。


 光が、獣の体を貫く。


 だが――

 獣は止まらない。


ミリア:「……効きが、悪い!」


セリア:「“祓い”が必要です!」


 叫ぶ。


セリア:「これは、

     ただの魔獣ではありません!」


 獣が吠える。


 音が、

 霧と空気を震わせる。


 その瞬間。


 カイの中で、

 嵐が、応えた。


カイ:(……使うな)


 心の中で、

 自分に言い聞かせる。


 だが、

 体が、僅かに先に動く。


 踏み込む。


 風が、

 刃に絡みついた。


レオン:「……おい」


レオン:「今の、

     見たか?」


ミリア:「……うん」


 獣が、

 一瞬、怯んだ。


 確かに、

 “力”が通った。


 だが、次の瞬間。


 鬼の面が、

 ぎしりと歪む。


 獣は、

 再び動き出した。


 ――終わっていない。


セリア:「……まだです」


セリア:「これは、“呼ばれたもの”」


セリア:「倒しても、

     終わりません」


 霧の奥。


 さらに、

 何かが動く気配。


レオン:「……一体じゃないな」


 笑う。


 だが、

 その声は低い。


レオン:「なるほど」


レオン:「追われてる理由、

     分かってきた」


 朽ちた鳥居が、

 きしむ。


 忘れられた祈りが、

 獣を縛りつける。


 そして同時に――

 解き放っていた。


 これは、

 始まりに過ぎない。


 霧の向こうで、

 誰かが、見ている。


 影ではない。


 だが、

 まだ名を持たぬ意思が、

 確かに存在していた。

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