第0.5話「まだ言えない理由」

 夜明け前。


 白陽にほど近い街道脇で、

 三人は焚き火を囲んでいた。


 空はまだ暗く、

 町の灯だけが、遠くで揺れている。


ミリア:「……ねえ、セリア」


セリア:「はい」


ミリア:「私たち、

     どこまで行くんだっけ?」


 何気ない問い。


 だが、

 セリアはすぐに答えなかった。


 カイは焚き火を見つめたまま、口を開く。


カイ:「“白陽を越えて、

    東の山を目指す”」


カイ:「そう言われた」


ミリア:「そうそう、それ」


ミリア:「でもさ」


ミリア:「理由、

     ちゃんとは聞いてないよね」


 風が、火を揺らす。


セリア:「……理由は」


 一拍置いて。


セリア:「世界が、

     少しずつ歪んでいるからです」


 ミリアが眉をひそめる。


ミリア:「歪み?」


セリア:「はい」


 静かな声。


セリア:「町の灯が、

     本来より長く燃え続けること」


セリア:「夜が、

     不自然に穏やかなこと」


セリア:「それらは、

     “良い兆し”ではありません」


カイ:「……誰かが、

    無理に支えてる」


 ぽつりと呟く。


セリアは、わずかに目を見開いた。


セリア:「……ええ」


セリア:「本来、

     世界は均衡の上にあります」


セリア:「それを超えて

     保たれている状態は、

     必ずどこかで歪みを生む」


ミリア:「それで、

     私たちは?」


セリア:「歪みの“中心”を、

     探しています」


ミリア:「中心……」


セリア:「はい」


 焚き火に、薪を足す。


セリア:「そこには、

     “力”がある」


セリア:「神と呼ばれた存在か、

     それに近い何か」


 ミリアが息を呑む。


ミリア:「……それ、

     危なくない?」


セリア:「危険です」


 即答だった。


カイ:「……じゃあ、

    なんで行く」


 視線を上げる。


カイ:「誰かに、

    頼まれたのか?」


 セリアは、

 首を横に振る。


セリア:「いいえ」


セリア:「これは、

     私の選択です」


 その言葉には、

 迷いがなかった。


ミリア:「……もし」


ミリア:「その“中心”を見つけたら?」


セリア:「状況次第、です」


セリア:「正すこともあるでしょう」


セリア:「封じることも」


セリア:「……壊すことも」


 沈黙。


 夜が、少しだけ冷える。


カイ:「……壊したら」


カイ:「何かが、

    終わるんじゃないか?」


 セリアは、

 答えなかった。


 ただ、

 遠くの白陽を見つめる。


セリア:「……終わるものも、

     あるでしょう」


セリア:「ですが」


セリア:「終わらせなければ、

     続かないものもあります」


 その声は、

 祈りに近かった。


ミリア:「……難しいね」


 小さく笑う。


ミリア:「でもさ」


ミリア:「私は、

     セリアと一緒に行くよ」


 カイも、

 静かに頷く。


カイ:「俺もだ」


カイ:「理由が全部分からなくても」


カイ:「放っておけない感じが、

    する」


 セリアは、

 二人を見て、

 小さく微笑んだ。


 そして、心の中で呟く。


セリア:(……ごめんなさい)


セリア:(本当の理由は、

     まだ言えません)


 彼女だけが知っている。


 この旅が――

  世界を繋ぎ止める旅になることを。


 

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