ー本編ー

1章「白陽編」

第1話「一人目の旅人」

 レオンは一人で歩いていた。


 国境へ続く街道は、昼なお薄暗く、風がやけに冷たい。

 それでも彼は気にした様子もなく、軽い足取りで進んでいた。


レオン:「いやー、完全に道、間違えたな」


 独り言にしては妙に楽しそうだ。

 どこから来たのか、どこへ行くのか。

 そのどちらも、彼自身あまり気にしていない。


 腰の剣が、かちゃりと鳴る。

 それだけで、今は十分だった。


 ―そのとき。


???:「きゃあっ!」


 悲鳴が、林の奥から聞こえた。


レオン:「おっと。これは放っておけないな」


 そう言って、彼は自然に走り出していた。


 林の中では、馬車が魔獣に囲まれていた。


 一人は長剣を構えた無口そうな男。

 もう一人は、杖を握る少女。

 そして――白い法衣をまとった少女が、必死に祈っている。


レオン:「お待たせ!」


 間の抜けた声と同時に、剣が閃いた。


レオン:「順番待ちって知ってるか?」


 一体、二体。

 無駄のない動きで、魔獣が倒れていく。


レオン:「はい、終了!」


 最後の一体が倒れた瞬間、場に静寂が戻った。


カイ:「……助かった」


 長剣の男が短く言う。


レオン:「どういたしまして! 通りすがりだけどね」


 その直後、柔らかな光が広がった。


セリア:「《癒しの導きよ》」


 白い光が傷を包み、痛みを消していく。

 レオンは思わず目を見開いた。


レオン:「おお……すごい。魔法?」


セリア:「ええ。怪我は、もうありません」


 穏やかな声。

 不思議なほど落ち着いた瞳。


 レオンは、なぜか目を逸らせなかった。


レオン:「助かったよ。俺はレオン」


セリア:「セリアです」


 それだけのやり取りなのに、胸の奥に残るものがあった。


ミリア:「ねえねえ! あんた、めっちゃ強いじゃん!」


 杖を持った少女が、勢いよく近づいてくる。


ミリア:「もしかして傭兵? それとも冒険者?」


レオン:「ただの旅人だよ。たぶん」


ミリア:「たぶん!?」


 少女が笑う。

 その笑い声は、場の空気を一気に和ませた。


カイ:「……北の街まで行く。護衛が必要だ」


レオン:「北か。奇遇だな、俺もそっち!」


 少し考えて、すぐに笑う。


レオン:「じゃあ、一緒に行こう!」


ミリア:「軽っ!」


レオン:「旅は勢いだろ?」


 カイは一瞬だけレオンを見つめ、頷いた。


カイ:「……構わない」


 セリアは、静かにその様子を見ていた。

 そして、ゆっくりと口を開く。


セリア:「……よろしくお願いします、レオンさん」


 その微笑みは、優しくて――

 どこか、夜明け前の空のように静かだった。


 夕暮れの街道を、四人は並んで歩く。


ミリア:「ねえレオン、これからどうするの?」


レオン:「さあ? 生きてりゃ、なんとかなる!」


 即答だった。


 セリアは、その言葉を聞いて、少しだけ目を伏せる。


セリア:「……そうですね」


 短く、そう答えた。


 風が吹き、影が長く伸びる。

 まだ誰も知らない。

 この旅が、運命に触れていくことを。


 今はただ、

 道が続いているだけだった。

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