第8話「旅立ち」

 白陽の朝は、いつも静かだ。


 夜を越えてなお灯りが消えぬ町は、

 朝になっても慌ただしさを見せない。


 それでも――

 この朝だけは、どこか違っていた。


 宿の前。


 荷をまとめた仲間たちが、並んで立っている。


レオン:「よし、準備はいいか?」


 いつも通り、軽い声。


 だが、その声に

 町の空気が応えることはなかった。


ミリア:「……ねえレオン」


レオン:「ん?」


ミリア:「この町、

     私、好きだったな」


レオン:「だな。飯も美味いし、人も優しい」


 何気ない会話。


 だが、ミリアは足を止めたままだ。


 町の奥――

 白陽の灯が最も強く残る場所。


 そこに、セリアは一人、立っていた。


セリア:(……まだ、消えてはいない)


 灯は揺らいでいる。


 ほんの僅かだが、

 昨日より、弱い。


 理由は分からない。


 だが、

 “離れる”という選択が、

 何かを削っている。


 その確信だけが、胸に残った。


カイ:「……セリア」


 声をかけられ、振り返る。


セリア:「カイ。どうしました?」


カイ:「……いや」


 言葉にできない。


 昨夜の夢。

 嵐の声。


 それを、

 まだ誰にも話すつもりはなかった。


カイ:「……この町」


カイ:「俺たちが出たら、

    どうなるんだろうな」


 セリアは、少しだけ目を伏せる。


セリア:「……町は、町として在り続けます」


セリア:「人がいる限り」


 それは、

 嘘ではない。


 だが、

 真実でもない。


 門の前。


 見送りに来た町人たちが、頭を下げている。


町人:「ありがとうございました」


町人:「あなたたちが来てから、

    夜が……静かでした」


レオン:「俺たちは、

     ただ通りがかっただけだよ」


 笑って、手を振る。


 門を出る瞬間。


 白陽の灯が――

 ふっと、一段、暗くなった。


 誰も、声を上げない。


 だが、

 確かに、全員が感じた。


ミリア:「……今、何か」


レオン:「気のせいだろ」


 明るく言い切る。


 レオンは、振り返らない。


 振り返る理由を、

 まだ持っていないからだ。


 町の外。


 道は、ゆるやかに山へ向かって伸びている。


カイ:「……なあ、レオン」


レオン:「ん?」


カイ:「俺たち、

    どこへ向かってるんだろうな」


レオン:「さあ?」


 レオンは笑う。


レオン:「歩いてりゃ、

     そのうち分かるだろ」


 その言葉は、

 あまりにも無責任で――

 だからこそ、仲間を前に進ませた。


 セリアは、最後に一度だけ、

 町を振り返った。


 白陽の灯。


 確かに、そこにある。


 だが、

 戻ったとき、同じ姿である保証はない。


セリア:(……ごめんなさい)


 誰に向けた謝罪か、

 自分でも分からない。


 ただ一つ。


 旅は、始まった。


 そして同時に――

 何かが、確実に失われ始めていた。

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