第6話「灯を捨てる町、灯を抱く人」

 白陽の朝は、夜と変わらぬ明るさで始まる。


 眠らぬ灯の町では、朝日よりも先に、

 灯籠の光が人々を起こす。


 だがその日、町の空気は重かった。


町人A:「……昨夜の影、また来るかもしれん」


町人B:「灯があるから狙われるんだ」


町人C:「なら……消せばいい」


 その言葉が、

 静かに、しかし確かに、町に広がっていった。


 広場に人が集められる。


 町の長老が、杖をついて前に立った。


長老:「白陽の民よ」


長老:「この町は、灯によって守られてきた」


長老:「だが同時に……

    灯は、災いを呼び寄せる」


 人々がざわめく。


町人:「影の者は、灯を見に来たと言っていた!」


町人:「あれがまた来たら……今度は!」


 長老は、一度目を閉じ、

 そして、重く口を開いた。


長老:「町の灯を……消す」


 息を呑む音が、重なった。


ミリア:「……え?」


カイ:「……本気か」


レオン:「ちょっと待った」


 軽い口調だったが、

 その声は、広場に通った。


レオン:「灯を消したら、影は来ないかもしれない」


レオン:「でもさ」


 彼は町を見回す。


レオン:「この町、夜をどうするんだ?」


町人:「……」


レオン:「眠らぬ町って言うけど、

     灯があったからだろ?」


 沈黙。


 レオンは、困ったように笑った。


レオン:「俺、神とか詳しくないけど」


レオン:「怖いから捨てるってのは、

     ちょっと寂しくない?」


 誰も、すぐには答えなかった。


 その時、セリアが一歩前に出た。


セリア:「……町の灯は、神のためのものではありません」


 静かな声。


 だが、芯があった。


セリア:「この灯は……

     人が、人の夜を越えるためのものです」


長老:「だが、娘よ。

    神に見られた以上――」


セリア:「見られたからこそ、です」


 セリアは、真っ直ぐ長老を見る。


セリア:「それでも灯すかどうか」


セリア:「それを選ぶのは、

     神ではなく、人です」


 広場に、再び沈黙が落ちる。


 人々の視線が、灯籠へ向く。


 柔らかく、変わらず灯る光。


町人A:「……俺は、消したくない」


町人B:「夜が怖いのは、灯がない時だ」


町人C:「……祈りだと思えば、いい」


 少しずつ、声が重なる。


 長老は、深く息を吐いた。


長老:「……よかろう」


長老:「白陽は、灯を捨てぬ」


 決断だった。


 その瞬間。


 町の外れで、

 空気が、わずかに歪んだ。


 誰にも見えない場所で、

 名を持たぬ存在が、静かに町を見下ろしていた。


???:「……選んだ、か」


 灯籠の光が、揺れる。


 だが、消えない。


???:「人の灯……まだ、測るに値する」


 その声は、夜へ溶けた。


 広場。


ミリア:「……よかった」


カイ:「……ああ」


レオン:「大仕事終わった感じだな」


 レオンは、いつものように笑った。


レオン:「でも、選んだ以上はさ」


レオン:「守らなきゃな。

     この町も、この灯も」


 その言葉に、

 セリアは小さく、目を伏せた。


セリア:(……だから)


 だから、この人は。


 人の選択を、

 当然のように背負ってしまう。


 白陽の灯は、今夜も消えない。


 それは、

 神に許されたからではない。


 人が、捨てなかったからだ。


 そしてその選択は、

 確かに――

 神の側へ、届いていた。

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