第4話【幕間】-セリア-「灯命を量る夜」

 白陽の夜は、暗くならない。


 障子越しに差し込む灯石の光が、

 部屋の隅々まで、やわらかく照らしている。


 眠るには、少しだけ明るすぎる夜。


 セリアは布団の中で、静かに目を閉じていた。


セリア:(……今日で、また少し)


 胸に手を当てる。


 そこにある鼓動は、確かで、

 けれど数えられるほど、限られている。


 聖導師として生まれた時から、

 セリアは知っていた。


 ――自分の灯命(とうめい)が、

 長くはないことを。


 それは病ではない。

 呪いでもない。


 役目だった。


 幼い頃、師に告げられた言葉が、今も残っている。


師:「セリア。お前の命は、祈りそのものだ」


師:「世界が大きく歪む時、

   その歪みを留めるために、

   お前は生まれた」


 その時、怖さはなかった。


 ただ、

 「そういうものなのだ」と思った。


 今、怖いのは――

 知ってしまったことだ。


 人の温度。

 笑い声。

 名前を呼ばれる距離。


 そして。


 あの人。


 隣の部屋から、声が聞こえる。


レオン:「あー……やっぱ硬ぇな、この布団」


ミリア:「贅沢言わない! 屋根あるだけ感謝!」


レオン:「それはそう」


 笑い声。


 胸の奥が、少しだけ痛む。


セリア:(……いけない)


 レオンは、明るい。

 気さくで、壁がない。


 だからこそ――

 近づいてはいけない人だった。


 昼間の光景が、脳裏に浮かぶ。


 祠で祈った時、

 神ではなく、町の灯を願った自分。


セリア:(神は……きっと)


 知っている。


 自分が、どこまで行けるかを。


 そして、

 誰が、どこまで一緒に来てしまうのかを。


 セリアは、静かに息を吐いた。


セリア:(まだ……言わない)


 言うべきではない。

 今ではない。


 あの人は、

 「今」を選ぶ人だから。


 未来を示せば、

 きっと迷わず、そこへ飛び込んでしまう。


 それだけは、

 させてはいけない。


 灯石の光が、ふっと揺れる。


 白陽の灯は、今夜も消えない。


 セリアは、目を閉じた。


セリア:(あと……どれくらい)


 問いに、答えは返らない。


 ただ、

 灯命は確実に、減っている。


 距離は、少しずつ、

 縮まっている。


 それでも――

 この夜を、守りたいと思った。


 名前を呼ばれる、この距離を。


 白陽の眠らぬ灯が、

 静かに、彼女の影を照らしていた。

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