第3話「灯を守れ!」

白陽の町が、ざわめいていた。


 眠らぬ灯の町は、夜でも静まらない。

 だがこの夜のざわめきは、いつもの活気とは違っていた。


町人A:「おい、あっちだ!」


町人B:「まただ……また灯が!」


 通りの奥で、人だかりができている。


ミリア:「なになに? 事件?」


レオン:「面白そうだな」


カイ:「……行くぞ」


 四人は人混みをかき分け、現場へ向かった。


 灯籠が、ひとつ倒れていた。


 中に収められていた灯石は砕け、

 淡い光が、今にも消えそうに弱まっている。


町人:「灯が……灯が消える……!」


町人:「そんな……白陽の灯が……!」


 人々の顔に、恐怖が浮かんでいた。


レオン:「一本消えただけで、そんな騒ぎ?」


町人:「旅の方は知らんのだ!」


町人:「この町は……灯があるから、夜を越えられる!」


 老人が震える声で叫ぶ。


町人:「灯が減れば……

    “夜のもの”が来る……!」


ミリア:「夜のもの?」


 次の瞬間。


 ――町の灯が、一斉に揺れた。


 風もないのに、灯石の光が歪む。


カイ:「……来る」


レオン:「なにが?」


 答えの代わりに、悲鳴が上がった。


町人C:「うわあっ!」


 路地の奥から、黒い影が這い出してくる。

 人の形に似ているが、輪郭が曖昧で、目だけが赤く光っていた。


ミリア:「な、なにあれ……!」


セリア:「影妖(えいよう)……!」


レオン:「敵ってことでいい?」


セリア:「はい……灯が弱まった場所に現れます」


 説明はそれだけで十分だった。


レオン:「ミリア、下がって!」


ミリア:「えっ、ちょ……!」


 レオンは剣を抜き、影妖へ駆ける。


 だが――


 影妖は一体ではなかった。


 路地、屋根、地面の影から、次々と現れる。


カイ:「数が多い」


ミリア:「無理無理無理!」


 影妖の一体が、倒れた灯籠のそばにいる子どもへ伸びる。


町人:「危ない!」


 その瞬間。


 カイの体が、自然と前に出ていた。


カイ:「――来るな」


 剣を構えたわけでもない。

 ただ、子どもの前に立った。


 影妖が、カイへ襲いかかる。


 その時――


 カイの胸元で、何かが“鳴った”。


 ドン、と空気が震える。


 見えない衝撃が走り、影妖が弾き飛ばされた。


ミリア:「え……?」


レオン:「今の……」


 カイ自身も、目を見開いていた。


カイ:「……俺が、やったのか?」


 彼の足元に、微かな風が渦を巻く。


 それは、嵐の前触れのようだった。


 レオンは一瞬で状況を理解し、笑った。


レオン:「すげーじゃん。頼もしいな」


カイ:「……分からない。体が、勝手に」


セリア:「……」


 セリアは、カイを見つめていた。


 恐れではない。

 悲しみでもない。


 覚悟を見届ける目だった。


 影妖は、やがて灯の戻りとともに消えていった。


 町人たちは安堵し、灯籠を立て直す。


町人:「助かった……」


町人:「灯が……守られた……」


 子どもは、カイに深く頭を下げた。


子ども:「ありがとう!」


 カイは、少し戸惑いながらも、頷いた。


カイ:「……ああ」


 宿へ戻る道すがら。


ミリア:「ねえ……さっきの、なに?」


カイ:「分からない」


レオン:「でもさ」


 レオンは、いつもの軽い口調で言った。


レオン:「守りたいって思ったんだろ?」


カイ:「……」


レオン:「だったら、理由はそれで十分じゃない?」


 カイは、何も答えなかった。

 だが、拳を握りしめていた。


 セリアは、静かに歩きながら、胸の奥で呟く。


セリア:(始まってしまった……)


 白陽の灯は、今夜も消えない。


 だが確かに、

 何かが目覚めた夜だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る