第2話「眠らぬ灯の町・白陽(はくよう)」

 山道を抜けた先で、夜が訪れているはずの町が見えた。


 闇の中に、無数の淡い光が浮かんでいる。

 火ではない。揺らぎも、煙もない、不思議な灯。


レオン:「……なんだ、ここ。夜だよな?」


ミリア:「うわぁ……きれい。お祭り?」


カイ:「違う。常に灯っている」


 町の門には、木札が掛けられていた。

 墨で書かれた名は――


白陽(はくよう)の町

―― 眠らぬ灯の町


セリア:「白陽……」


 セリアはその名を、胸の奥で確かめるように呟いた。


 町へ一歩足を踏み入れた瞬間、空気が変わる。


 夜であるはずなのに、人々は行き交い、

 店は開き、子どもたちは笑って走り回っている。


レオン:「ほんとに寝ない町だな」


ミリア:「目が冴えちゃいそう」


カイ:「……灯籠が多すぎる」


 通りに並ぶ和紙灯籠の中には、

 火の代わりに淡く光る石が納められていた。


レオン:「これ、火じゃないよな?」


町人:「おや、旅の方かい?」


 声をかけてきたのは、年配の男性だった。


町人:「それは“灯石(とうせき)”って言ってな。

    昔から、この町を照らしてくれてる」


ミリア:「へえー! 便利!」


町人:「便利、というより……守り、かな」


 町人はそう言って、遠くを見る。


町人:「灯が消えない限り、白陽は滅びぬ。

    そう言われてきました」


レオン:「神様のおかげ、ってやつ?」


町人:「さあね。

    神の名は、もう誰も知らん」


 その言葉に、セリアの指先がわずかに震えた。


 宿に荷を置いたあと、四人は町の外れへ向かった。


 そこには、ひっそりと佇む古い祠があった。

 石は欠け、注連縄も色褪せている。


ミリア:「うわ……だいぶ年季入ってる」


カイ:「……町より、古いな」


 セリアは何も言わず、祠の前に立つ。


レオン:「気になる?」


セリア:「はい。少しだけ……」


 彼女は静かに手を合わせた。


セリア:「この町に灯があり続けますように」


 それだけだった。

 神の名も、願いの理由も口にしない。


 ――その時。


 祠の奥で、灯石と似た淡い光が、かすかに脈打った。


 誰も気づかないほどの、微かな変化。


 ただ一人、カイだけが眉をひそめる。


カイ:「……」


ミリア:「カイ? どうしたの?」


カイ:「……胸が、少し」


レオン:「大丈夫か?」


カイ:「問題ない」


 短くそう言い、カイは視線を逸らした。


 彼自身も、その理由が分からなかった。


 帰り道。


ミリア:「ねえレオン」


レオン:「ん?」


ミリア:「一人旅、長かったの?」


レオン:「さあ。数えてない」


ミリア:「適当だなあ」


レオン:「今が楽しけりゃ、それでいいだろ」


 ミリアは一瞬、驚いた顔をして、

 それから笑った。


ミリア:「……うん、そうかも」


 少し後ろを歩くセリアは、その背中を見つめていた。


セリア:(この人は……やっぱり)


 言葉にはしなかった。


 宿へ戻ると、灯籠の光が揺れていた。

 消えることのない、白陽の灯。


 その灯の下で、四人は同じ夜を過ごす。


 

 眠らぬ灯は、ただ静かに、

 彼らの行く先を照らしていた。

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