会話劇:深夜のネカフェ店員の雑談

文月イツキ

チッ ──先輩の怒りの波動について──

「先輩、ほんまにすいません」

「ええよ別に、自分も新人の頃よくやらかしとったし、次からは気ぃ付けてくれたらええから。ちゃんと今回のミスは覚えときや」

「はい、『フロントのゴミは銃殺ではなく、備え付けの金槌で殴殺しましょう』っスよね」

「そ、入ってきたお客さんが血だまり踏んで気付かずに歩き回ってまうかもしれへんから」

「他の業務もあるのに、しょうもないことで何回もタラタラ絡んできよったんで、つい、カッとなってしもうて」

「まあ、ついカッとなるとパァンいきたぁなる気持ちは分からんでもないけどな。そういう時にこそ、落ち着いて冷静に、相手がライン超えてきたのを見計らって、すかさずスパァンやったらええ」

「先輩上手いッスよね、金槌で一撃で落とすの」

「コツはな、当てるんやのうって振り抜くって感じやな。振り抜いた弧を……弧な、あの円を切り抜いたみたいな」

「分かってるんで続けてもらって」

「でな、弧の軌跡の線上に相手のこめかみを置くイメージやな……軌跡な、奇跡でも輝石でも無くって」

「脱線してるやないですか」

「で、落ちた後、ちゃんとひっくり返して、後頭部をバチコンしたらええ、そしたら血もそんな出ぇへんから、後始末楽になるさかいに」

「勉強になります。あ、死体袋ってゴミ置き場ッスか?」

「いんや、ゴミ置き場の隣の倉庫みたいな方、朝方に回収の人来てくれはるから、『いつもご苦労様です』言うて鍵と数珠渡したってや」

「了解です」

「ほな死体捨てたら、休憩行ってきぃ」

「うっす」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「戻りましたー。あ、もう三時やのにフードの注文来たんすね。せっかくやし練習がてら俺が作ってもいいッスか」

「ほとんどフライヤーに放り込むだけやから練習も何もないけど、任せてええんやったら任せるわ。自分はその間に漫画やっとく──また、注文飛んできよった、しかも同じ席やないかい」

「うえ、しかも今飛んできたの、最初の奴より時間かかるやつやん」

「イエローカードやし、半殺しにしてくるわ」

「お願いしまーす」


「…………あとから飛んできたやつ、キャンセルでええって」

「ついでに漫画回収してきたんすね、手際いい~」

「あとから飛んでくるのがアルコールとかやったら全然ええのに、てか、横着せんと最初からいっぺんに頼めや」

「提供行ってきまーす」

「うい、頼んだでー……漫画戻そ……チッ」

「。──先輩の怒りの波動について──どないしました」

「自分から手ぇ出しにいけへんのは、フラストレーション溜まるなぁ思うて」

「あぁー背表紙にタイトルが一行で収まってないタイプの漫画ッスね。棚に戻すのめんどいッスよね、どの作品も同じに見えるし、作者の名前は読みにくいし」

「法が許すんなら出版社にバスで突っ込むんやけどな」

「仮に許されたとしても一人で勝手にやってくださいね」

「まーじ、こういうのなんて言うんやたっけ、なろう系? のコミカライズ、アホみたいに多いから嫌なんよ」

「色々事情はあるらしいッスけどね」

「しかも、体感やけど貸し出されてる回数が他の大手の漫画よりも多い気ぃするねんな」

「なぜか、キングダムと同じくらい本棚に戻してる気ぃします」

「キングダムはキングダムしかないからええけど、なろう系はジャンル単位で貸し出されてる感あるさかい毎回戻す棚がちゃうのもなんか嫌なんよな」

「漫画の返却作業で思うところって話だと、まとめて借りられた漫画の巻数がバラバラになって返されてるのウザいッスよね」

「しかも、どこの席の奴が返したか分からんから報復もできへん」

「図書館みたいにバーコードで管理してぇ」

「自分らの業務が増えるだけやで──あ、カラオケの団体客が帰りよるな。部屋見てくる。状態見てインカム飛ばすわ」

「うっす」

「──カラオケ内での喫煙、床の汚損、ゴミの散乱、スリーアウトや」

「皆殺しッスね」

「団体は店の外で蜂の巣な」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「この時間まで遊び歩いとる大学生なんて入店拒否したいんやけどなぁ」

「法律的には年齢の問題はクリアしてるから、店的には断れないッスもんね」

「親の金で遊んどるアホ共にも人権があるんやから不思議な話やでホンマに」

「平日の夜中だってのにほぼ毎日ダーツ・ビリヤードに入り浸っとるやつらおりますよね」

「絶妙に殺すほどでもない、しょうもないルール違反が多いのも嫌やわ」

「ダーツの先っちょ折れたままやったり、ビリヤードの玉ケースに戻してへんかったり、ドリンクバーのコップ机に置きっぱなしやったり、ほんま、ご両親から素敵な教育受けさしてもろてはったんやなぁって感じッスね」

「相手が大学生やからヤキ入れるくらいで許せんでもないけど、おっさんとかでも使ったもん片づけられへんアホが多いのは、ホンマにどうしようもあらへんな」

「『育ち』ですよねー」

「せやから、イエローカードだして、次からはそんなアホなこと出来へんように、幼稚園生の頃の内に学んどくべきやった常識を自分らが『教育』したらなあかん」

「一発退場なら二度と関わらんでもええから、俺ら的には楽なんすけど」

「厳しいしすぎると、ほとんどの人間を殺さなあかんくなるし、ほんま難儀やで──もうそろ上がりの時間やけど、定時業務は終わっとる?」

「はい、トイレもシャワーも大丈夫ッス。さっき先輩が休憩行ってる時に回収の人来たんで鍵と数珠もオッケーです」

「ちゃんと『ご苦労様です』は?」

「言いましたよ」

「ほな完璧やな、仕事覚えるの早うて助かるわ」

「いえいえ、先輩のご指導のおかげです」

「ほな、朝の人に引継ぎして上がろか」

「うっす、お疲れ様です」

「あいよ、お疲れ様ー」

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