第2話
司令部は、王都北部の旧行政庁舎を改修した建物に置かれていた。古く、装飾的で、実用性に欠ける。
王都らしい建物だ。
その会議室で、最初の作戦会議が開かれた。
「ノルデン連邦軍、国境突破を確認」
報告は簡潔だった。
「規模は」
「第一波で三個師団。続いて増援」
隣に座っていたリーゼ・クロイツが、書類から目を離さずに言った。
「想定より、少し多いわね」
「誤差の範囲だ」
私はそう答えた。
リーゼは私と同階級の将校で、作戦担当だ。
無駄な言葉を使わず、結論を急がない。
そして、私と同じく「正義」という言葉を信用していない。
「政治家どもは」
彼女が聞く。
「穏やかで静かだ」
「それは問題ね」
「ああ」
政治が静かなとき、戦争は軍人の手を離れつつある。
後になって、正義という名の介入が始まる。
地図の上で、王国の国境線が細く震えて見えた。
そこに引かれた線の脆さは、誰の目にも明らかだった。
いつまでその線が残っているのかわからない。
「王都まで、どれくらい保つ?」
だれが言ったかはわからないしあしその言葉はその場に静粛な空気を作った。
私は即答しなかった。いやできなかった。
考える必要はなかったが、答えには重さがある。
「このままの進行速度で考えると三週間かと」
「相手の武装なども込みで考えるとどうだ」
「二週間もつか持たないかでありましょう」
「悲観的だな」
「楽観が、国を殺す」
リーゼが静かに声を出す。
「正義は、楽観を好む」
「民主主義もな」
会議は淡々と進んだ。
勇ましい言葉は一つも出ない。
戦争の初期段階で必要なのは、勇気ではない。
終わりを見据える事だ。
私はその時点で、すでに一つの結論に辿り着いていた。
この戦争は、王国がどう勝つかと言うことを考える段階になく
・・どう終わるか・・が、すべてだった。
王都を失えば、国は終わる。
だが王都を守り切ることは、難しい。
ならば選択肢は一つしかない。
王都で、戦争を終わらせる。
そのために、どれだけのものを失うか。
その計算だけが、私の仕事だった。
リーゼが、私の思考を読んだように言った。
「王都を、戦場にするつもりかしら」
私は淡々と答える。
「その他に手立てがあるのであれば」
「勝ち目は?」
「ない」
「やるしかないものね」
「正義を、完成させない程度にはな」
リーゼは、少しだけ笑った。
決して喜んだわけではなく理解の合図だった。
戦争は、すでに始まっている。
そして始まりとともに負けていた。
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