第1話

戦争の前提


アウレリウス王国がこの戦争に勝てないことは、開戦前から明らかだった。

それは予想ではなく、計算だった。

国家というものは、感情ではなく数で戦争をする。人口、工業生産力、動員可能年数、輸送能力、燃料備蓄。それらを表に並べれば、勝敗はほぼ決まる。精神論が入り込む余地は、そこにはない。

王国は小さかった。

面積も、人口も、工業力も、いずれも敵国――ノルデン連邦共和国の数分の一に過ぎない。

唯一の違いは、王国が「守る側」だったという点だけだ。

だが守るという行為は、戦争において優位を意味しない。守る側は、失うものをすべて抱え込む。

都市、工場、港、住民、歴史。

それらはすべて、敵にとっては破壊しても構わない対象だ。

ノルデン連邦共和国は、この戦争を侵略とは呼ばなかった。公式文書では、終始一貫して「解放」と表現された。


―民主主義の防衛と拡張。

その言葉は便利だった。

兵を動かす理由として、これ以上のものはない。

自国民に説明でき、同盟国に理解され、敗北しても「過程だった」と言い換えられる。

正義とは、戦争を長引かせるための潤滑油だ。

摩擦を減らし、疑問を黙らせる。

王国側には、それがなかった。

王国は、王国であるという理由以外に、戦う理由を持たなかった。


私はその王国軍の将校名をヴァルデンという。

二十代後半、階級は中佐。

職務は作戦立案と戦況管理、つまり「どう死ぬか」を決める役目だ。


私には、戦争に対する高尚な思想はない。祖国愛と呼べるほどの感情も、正直なところ存在しない。

ただ一つ、信念と呼べるものがあるとすれば、これだ。


・・・国のために戦うこと・・・


それ以上でも、それ以下でもない。

正義のためではない。

自由のためでもない。

まして民主主義のためでもない。


国が存在し、私はそこに属している。

だから戦う。

それだけで十分だった。

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