第9話 北壁の活気と狩人の歩み
街の北側に広がる外壁は、冬の冷気を受けて白く曇っていた。
昨日も襲撃で一部が破損したと報告があり、ルイはその確認のために朝の薄い霧の中を歩いていた。
外壁へ向かう途中、ふと足が止まる。
(……そういえばスタンピードも北の外壁だったよな)
考えすぎかと自分に言い聞かせながらも足取りは自然と早くなっていた。
外壁に近づくと石材を運ぶ音と職人たちの掛け声が響いてくる。
「おーい、そっちの石はもう少し右だ! 落とすなよ!」
復旧班の職人たちが壊れた壁の一角に新しい石を積み上げていた。
破損箇所は思ったより広く、壁の外側には黒く焦げたような跡が残っている。
(……焦げ跡?)
ルイは壁の外側に目を向けた。
地面には何かが暴れたような深い爪痕が残っている。
「お、ルイさんか。確認に来てくれたのかい」
復旧班の責任者が声をかけてきた。
「壁の復旧は順調か?」
「まぁな。今日中には形になるだろう。ただ……外に残ってた痕跡が妙でな。
魔物が暴れたにしては、焦げ方が不自然なんだよ」
ルイは軽く頷いた。
「ギルドに報告しておく。周辺の巡回は増やした方がいい」
「助かるよ。こっちは壁の修復に手一杯でな」
職人たちの作業を見届けたあとルイは外壁沿いに歩き出した。
北側の森は薄暗く、朝でも影が濃い。
魔物が潜むには十分すぎる環境だ。
ギルドから受けた依頼は「周辺の魔獣の排除」。
外壁の破損が続けば街に被害が出るため早急な掃討が必要だった。
森の入口に差し掛かったとき低い唸り声が聞こえた。
「……グルル」
茂みが揺れ、灰色の毛並みをした狼型の魔獣が姿を現す。
牙を剥きこちらを警戒している。
ルイは腰の片刃に手を添えた。
「悪いが今日は素早く片付ける」
魔獣が飛びかかってくる瞬間、ルイの姿がふっと消えた。
次の瞬間には魔獣は地面に崩れ落ちていた。
首元に浅い切り傷が一筋。
血はほとんど流れていない。
ルイは片刃を軽く払うと森の奥へ視線を向けた。
(……一体じゃ終わらないな)
森の奥から複数の気配が近づいてくる。
牙を鳴らす音、地面を蹴る足音、低い唸り声。
「まとめて来るか……手間が省けて助かる」
灰色の影が三つ、四つ、五つ。
群れを成した魔獣たちが一斉に飛びかかってきた。
ルイは一歩踏み込み片刃を横に払う。
風が裂ける音だけが響き、次の瞬間には魔獣たちが倒れ伏していた。
切り傷は浅く、致命の一点だけを正確に断っている。
(……まだ奥にいるな)
森の奥へ進むと今度は猪型の魔獣が突進してきた。
巨体が地面を揺らし、木々が軋む。
「――遅い」
巨体が通り過ぎた刹那、魔獣は前のめりに崩れ落ちた。
喉元に小さな切り傷が走っている。
ルイは息を整えることもなく森の奥を見渡した。
(これで周辺はひとまず片付いたか)
外壁の破損、焦げ跡、そして北側に漂う違和感。
魔獣の群れは排除したが、胸の奥のざわつきは消えない。
(……やっぱり、何かあるな)
ルイは片刃を鞘に収め、静かに森を後にした。
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