6.北川さんの彼氏
「なあ、お前さん、最近どうよ。学校、楽しいか?」
「お前は父親か?」
向かい合って座りながら、
「ねえ、付き合うってどんな感じ?」
「な、なんだい唐突に? 俺は独り身だぞ?」
僕の突飛な質問に、拓馬は慌てたように取り乱した。そんなに慌てなくてもいいじゃんか。そこまで変なことを聞いたわけでもないのに。
「いやいや昔の話。
「どうって言われてもな……どうして急にまた。……はっ!? もしかしてお前、とうとう告ることに決めたのか?!」
拓馬には悪いけれど、もう付き合ってるんだよね……。
「まあ、もう高二の夏になるもんね」
「そうだよなぁ。高二の夏だもんなぁ」
特に深い意味はなかったのに、そんな感慨深そうに返れても。まるで経験者みたいに言うけれど、まだ一度目の高二の夏だよね?
「これ何回も言ってるけど、改めて言うぞ? 顔がいいだけの女はやめとけ。マジで。中身も含めて好きになれる女とだけ付き合うようにしとけ」
「選べる立場だったら、覚えておくよ。っていうかそれって経験則?」
「いや、
彼女と別れた時のこと、だいぶ癒えたみたいで安心した。あの時の拓馬は今までに類を見ないほど沈んでいて、この世の終わりかのような顔で毎日過ごしていたから。それこそ相当彼女が好きだったからこそ、相当なショックだったんだろう。
「まあ俺も、今は新しい恋に目覚めたからさ、心配すんなって」
気を遣われたのか、拓馬の方からそんなことを口にしてくれる。僕ってそんなに顔に出やすいだろうか。
「なんだ、それなら良かったよ。拓馬から見て、正直さ……
「……正直に言うと、だぞ? 傷つくなよ?」
僕は無言で頷く。何を言われても傷つかないさ。僕が知ってしまった事実以上に知りたくなかったことなんて、そうそうないだろうから。
「まず、顔のレベルが高すぎる。あのレベルじゃ引く手
「見た目にしては悪くないって?」
「いやさ、見た目のいい女って、自分が可愛いの自覚してて、それ武器にしたりするじゃん。そういうとこ、あんまなさそうだなってこと。というか、自分の見た目というか、人目というかにあまり頓着してなさそうなんだよなー。自分のことブサイクだとは思ってないだろうけど、可愛いかどうかとか、そもそも考えなさそうだし気にしなさそう。そう考えると、結構レアなタイプかもな。そういう女って、相手の見た目もさほど重視しなかったりするし、ワンチャンいけるかもよ?」
なるほど、言い得て妙だ。
「ありがとう、拓馬。少し自信出てきたよ」
「おう、頑張れよ!」
「それで、拓馬の気になってる人って?」
話ついでに聞いてみる。彼に新しく想い人ができていたなんて、まるで気づかなかった。彼の好きになる人のタイプはいつもバラバラで、正直彼の好みはわからない。今度はどんな人を好きになったのだろう。
「……まあ、お前には話してもいいか。北川さんという人がいるお前なら、横取りされる心配もないだろうしな」
信頼しているから、というわけではないのか。少し凹む。
耳貸せ、と拓馬が小声で僕を呼びつけ、こっそり教えてくれた。
「窓際の、一番後ろの子」
はて、誰だったかと思って視線を向けてみる。一人静かに昼食をとっている、長い茶髪の小柄な女の子。何というか、話しかけてほしくなさそうなオーラを振り撒いて、周りも近寄りがたいように少し距離を置いている。
「
「そ。可愛くね?」
確かに、見た目で言えば可愛い方だとは思う。だけれども、これは……。
「あの子、拓馬の言う見た目が良い分性格が悪いって説とはちょっと違うかもしれないけど……見た目は良いけど性格に難ありそうじゃない?」
「バーカ、見た目で判断すんなよ。
僕には北川さんしかいないから大丈夫だって、と言えば、だよな、と返ってくる。
というか、無駄に発音良すぎなんだよ。
互いに好きな相手がいて、自分が一番彼女を可愛いと思っているのだから、それでいいのだ。他の誰がどう思おうが、実際は関係ない。それでもついつい聞いてしまうだけで、本当は自分だけが彼女の可愛さをわかっていればいいと、そう思っているものなのだ。
ふと、横目で志乃さんの方を窺ってみる。彼女もいつも通り、仲のいい
すると、一人の男子がその志乃さんの方へずかずかと歩み寄っていく。あれは確か、隣のクラスの
「北川さん、誰と付き合ってるんですか! 教えてください! でないと諦めきれません!」
彼の放った衝撃的な一言に、教室内は瞬く間にしんと静まり返った。
きっと彼は彼女に告白して、振られたのだろう。この衆人環視の中で志乃さんに恋人の名前を言わせようとするのは、恐らく志乃さんが付き合っている人がいるという嘘の口実で自分を振ったのではないか、という疑念からだ。
嘘だったとしても、相手も本人も傷つかないよう配慮した優しい嘘だと思うし、そもそもよくある口実じゃないのだろうかとも思うが、彼からすれば、これは逆襲のつもりなのだろう。彼女を困らせたかったのだろう。あの完全無欠とも言える北川志乃を。
すると志乃さんは、一つ短いため息を吐いて、わざわざ腰を上げて堂々と対峙する。
「こんな大勢の前で聞く意味は理解しかねるけど、要するに、付き合っている人がいるっていうのが嘘だと思うってことね?」
困らせようとしたはずが、余裕な態度を崩さない志乃さんに、岩嵜くんは少したじろいだように見えたが、すぐに強気に言い返す。
「そうだよ! 嘘なんだったら納得いく理由を説明してくれよ!」
少なくとも、そんな言い方をする相手とは付き合いたくないと思う。それが一番の答えじゃないかなぁ。そんなことをぼんやり思っていると、志乃さんはゆっくり歩きながら、再び言葉を紡ぎ始めた。
「何をもって嘘だと思われたのかはわからないけれど、嘘じゃないよ。わたしは付き合っている人がいる。今もこの教室で、この馬鹿げた論争にため息を吐いてるんじゃないかな」
彼女のその言葉が終わると、彼女の歩みも止まる。そう、僕の背後で。彼女は僕の両肩に手を置いて、にっこりと笑みを浮かべてみせる。
「そうだよね?
あまりにも劇的な結末に、教室中が沸いた。
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