3.予告状
「
無事に飼い猫が見つかった
僕は昨日、
「いや、お礼なら大城くんに言いなよ。僕は言われた通りに行っただけだし」
「そうだよ。やっぱすげぇな、
昨日僕を巻き込んだ張本人である
黒瀬くんにそう言われた稲留さんは、何故か申し訳なさそうに僕へ小さく頭を下げて、大城くんへお礼を言いに行っていた。何にせよ、無事に“くろみつ”が見つかって良かった。
今日の僕はとある任務を抱えていた。タイミングは僕に任せられたが、どうしても今日中に行わなければならない約束になっている。とはいえ、どうやって切り出したらいいものか。
ちらと彼女の様子をうかがってみる。昨日はあんなことがあったのに、何事もなかったかのように、普段と何も変わらないように見える。今日も相変わらず可愛い。
僕の視線に気づいたらしく、ふっと柔らかく微笑んだ。いつもならどぎまぎしてしまったのだろうが、今日のそれは、別の意味を持っていることは明白だった。でもやっぱり見られていると緊張して、結局僕の方から視線を逸らしてしまった。
僕は覚悟を決めて、大城くんにおずおずと声をかける。
「あの、大城くん……」
「上杉君、昨日はお手柄だったね。見つけるだけならともかく、捕まえるのはなかなか大変だっただろうに」
本当に本当のことを言えば、僕が“くろみつ”を捕まえられたのは
大城くんが僕を高架下に送り出した意味を瞬時に理解したのか、むしろ北川さんに連れられて、いとも簡単に“くろみつ”を見つけられた。捕まえるのも、二人いればさほど難しいことでもなかった。僕は本当に、大して何もしていないのだ。
「ああ、いや、まあ……。今日は、その、相談があって……」
そう言って、僕は彼を空き教室へ連れ出した。彼自身も気を回して取り巻きに待っているよう言い残し、大人しくついてきてくれた。
相談があると前置きしておきながらなかなか話し出さない僕を見放すことなく、大城くんは僕の言葉を静かに待っていた。数々の相談を受ける彼だからこそ、言い出し辛い相談もあるとわかっているのだろう。そんな彼の優しさに付け込むようで心苦しいが、僕だって後には退けないんだ。
「これ、なんだけど……」
僕はようやっと、ポケットに忍ばせていた洋封筒を取り出し、彼に見せる。深紅の封筒に、宛名や差出人の名前は無し。中を開けてみれば、一枚の白いカードに緑色の文字の羅列。裏面には同じく緑色で、鳥籠の中に囚われた一枚の羽の絵が描かれていた。
「これって……」
ニュースで見たことのあるこのマーク。
「……“トリカゴ”の、予告状」
ニュースでは報道されていないが、“トリカゴ”の予告状の共通点はもう一つ。すべて0.5ミリの緑の油性ボールペンで書かれていること。マークもすべて手書きである。これを書いた本人に聞いたことだから、間違いない。
だが、大城くんがこれを見て“トリカゴ”の予告状だと断言したということは、彼はそのことを知っていたのだろう。やはり、警察に捜査協力しているという噂は本当なのだ。
「これを、どこで?」
「……うちのポストに入ってて。もしかしたら、と思って、大城くんに聞いてみようと思ったんだ。……何で、うちに? うちが狙われるってこと……?」
僕はいかにも不安そうに、少し取り乱した様子を見せる。すると大城くんは、優しく僕の肩を叩いて、落ち着かせようとしてくれた。
彼と出会ったばかりの頃は、背も高くて体格もいい彼のことが少し怖かったけれど、今はその大きな身体が頼もしく見える。
「落ち着け。大丈夫だ。この内容なら、その可能性は低い。それに、もし仮にそうだとしても、犯行の前に俺が“トリカゴ”の正体を暴いて捕まえてやるさ」
冗談ではなく本気で言っているんだろう。頼もしい限りだ。こんな人が同じクラスにいるなんて、北川さんも災難だな。だからこそ、僕という刺客が送り込まれたのだろうけれど。
「ありがとう。この予告状、何て書いてあるの?」
実は僕も、内容までは知らされていない。書いているところを見てはいたし、自分でも開封して中を見た。だけど、そこに書かれている内容はまるで読み解くことができなかった。
「“天高くして馬肥ゆる朝 雲
「え、何で読めるの?」
書かれているのは漢字とひらがなが混じった文字列だけれど、とても意味を成すものには見えない。ましてや、今彼が言った意味になるとはとても思えない。
「かな入力だよ。パソコンのキーボードって、アルファベットの下にひらがなが書いてあるだろう? ここに書かれている文字列をキーボードの配列に合わせてローマ字入力に変換する。漢字になっているところは恐らく変換後にも漢字になる場所だ。そうすると、さっき言った文が最も意味が通る文になる」
こんなのを考える方も考える方だし、解く方も解く方だ。お互いに一目見て、一瞬で書いて、解いた。まるでそれが母語であるかのように。これが、天才……なのか。生きている世界が違うとは、まさにこのことだ。
「変換してもなお暗号文のようなのが嫌らしいけれどな」
「確かに、どういう意味なんだろ……」
大城くんでも、さすがにこの暗号文は瞬時には解読できないようで、紙面を睨みつけて黙り込んでしまった。
「上杉君、これ俺が預かってもいいかな?」
「あ、うん。僕が持っていてもしょうがないし。警察には届けるの?」
「一応、父さんに伝えるよ。構わない?」
「うん」
警察に届け出たところで結局は彼の元に戻ってくるのだろうけれど、形式として正規のやり方を通した方がいいはずだ。僕がごねるようなことじゃない。
何かわかったら僕にも教えてくれると約束してくれて、大城くんはみんなの元へ戻っていった。
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