2-4.
「……実は僕、一度、君を試したんだ。それで確信が持てたんだよ」
試した、と聞いて、
「自習室で君と話をしたでしょ? あの時、君は何も見ずに即答し、断言した。普通の人の反応って、まずその質問自体に戸惑ったり、質問の意図を聞き返したり、少し考えたり、ケータイで調べたり、曖昧な返事をしたり……そんな風になると思うんだ。だけど、君はそのどれにも当てはまらなかった。この質問自体には、実は何の意味もないんだ。別に、君に天気を推測する力があるかを試したかったわけじゃない。ただ、君は普通の人はしないような回答をした。そして、あの質問に対する僕の回答も、君と同じなんだ」
そこまで言われて、科乃は彼の言わんとしていることに気付いてしまった。そして同時に、彼が何者なのかも。そう、彼は自分と同じだ。普通とは違う。ただ自分とは異なり、周囲に溶け込む術を身に付けている。
「だから君は、僕と同じなんじゃないか? ……僕と同じ、“造られた天才”なんじゃないか?」
こんな、こんなことがあるだろうか。たまたま潜入捜査に行った高校で、自分と同じ境遇の者に出会うなんて。彼になら、自分の正体が勘付かれるのも頷ける。彼は彼女にとって、“キョウダイ”と呼べる存在なのだから。科乃は何とも言えない感慨に浸りながら、どう答えるべきか、言葉を選んでいた。
「……はぁ、恐れ入るわ。その通りよ」
「……やっぱり、そうなんだ」
するとそこへ、史奈の取り巻きの一人、
「あ、いたいた。えっ……」
彼女の姿が視界に入った一瞬で、彼は彼女の言葉を遮るように、科乃に手を差し出して絞り出すような声を上げる。
「
突然の出来事で呆気に取られている杏実菜を余所に、科乃は彼の手を取り、ふっと微笑んだ。
「うん、いいよ」
「えっ、ウソっ!? 科乃ちゃん、
杏実菜は怪しげな笑みを浮かべながらそそくさと部屋に戻っていった。恐らく、皆に報告しにいったのだろうことは、二人には安易に想像できた。
「……素晴らしい判断力だったよ。この場を見られて詮索されるのも面倒というか、後々厄介なことになっても困る。ならこの状況を利用して、もっと強烈な話題を提供してやればいい。この年頃なら恋愛話はすぐ食いつくだろうし、振られても当初の目的は達成できるし、わたしには迷惑がかからない。噂もしばらくすれば風化するし、自分にも大した影響はない。あの一瞬で、そこまで考えたんでしょう?」
同じことを科乃も考えたが、実行するのは科乃ではなく
「そこまでわかってて、何で、その……付き合うって?」
彼の中では、科乃に告白した後に振られるところまでが予定内だったらしく、裏をかかれたことに驚きを隠せないでいた。
「逆に、振られない場合のことは考えなかったの?」
「まあ、振られないわけがないし……。万が一振られなかったら、それはそれで……とは、思ったけど」
言っていて恥ずかしくなったのか、榛久の言葉は終わりにつれか細い声になっていった。
「じゃあ、いいじゃない。さ、話大きくされるのも面倒だし、戻ろう?」
手を引かれるままに彼女の後についていく彼は、やたらと大きく見えるその小さな背中にぼそっと呟いた。
「……やっぱり変わってるよ、新崎さんは」
「いやぁ~、そっかぁ~。科乃ちゃん、こういうのが好みだったんだね~」
茶化すように言う史奈に、科乃は少しムッとしたように言い返す。
「はっきり言えば、そんなに好みってわけでもないんだよね。でも、付き合ってみてもいいかな、と思えるだけの心意気は感じたよ。だから、あんまり茶化さないであげて」
「だってよ、榛久くん。こんなにいい子を恋人にできるなんて、妬けちゃうなぁ。大事にしてあげなよ?」
そっと耳打ちする
「じゃ、お邪魔しちゃ悪いし、ウチらはさっさと帰りまぁ~す。またねぇ~」
「まだ夜はこれからだし、ゆっくり楽しんでけよ? お二人さん」
そんなことを口々に言われながら、次々と散り散りになっていき、とうとう科乃と榛久の二人だけが残された。この状況に呆然としている榛久と、見知らぬ土地で身動きの取れないでいる科乃との間に、僅かな沈黙が訪れ、やがて榛久がそれを破った。
「……ねえ、新崎さん。もう一回聞くけど、付き合うって、本気?」
「まあ、半分くらいは。もう半分は、わたしは目的があって高校に通ってるんだけど、これがヒントかな。当ててみて?」
自分の頭脳に匹敵するかもしれない榛久に、科乃は興味を抑えられず、彼を試したくて仕方がなかった。SIRのメンバーですら、自分とまったく同じ土俵で話ができているとは感じられない彼女が、本当の意味で対等に話ができるかもしれない相手。そんな期待感が、彼女の中の大半を占めていた。それが好意と呼べるものかどうか、彼女には判断しかねたが、交際する理由としては充分なように思えた。
「……僕や君のような特殊な人間は、どこかの研究機関に好き勝手弄らていてもおかしくない。何か実験的に、高校生活を送らされている、とか?」
「んー、当たらずとも遠からずってところかな。そのうち話すよ、ちゃんと。君はわたしの恋人なんだし、隠し事をし続けるのも、心苦しいしね」
「……それ、本気で言ってる?」
「半分くらいは、ね」
ふふっと悪戯に笑う彼女に、榛久は胸がざわつく感覚を覚えた。心臓の逸りを感じる。これを好意と捉えるか、榛久にはまだ決められないでいた。
「……家は? 遠いの?」
「ホテルを取ってるの。たぶん、そんなに遠くはないと思うけど。一応、帰りは迎えを呼ぶつもり。だから、あんまり遅くならなきゃ大丈夫だよ?」
何が大丈夫なんだか、と呆れ気味にため息を漏らした榛久がスマホで時間を確認すると、もうすぐ十八時になるかというところ。陽は既に沈んだだろうか。辺りが暗くなるのもそう遅くないだろう。そんな時間まで女の子を連れ歩くのは、できれば避けたい。
そう考えた彼は、とりあえずもう少し静かな場所に移動することを提案し、彼女もこれを快く受け入れた。
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