1-4.

「今から残っている近辺の監視カメラの映像を、総当たりで自動解析に掛けます。映りこんだ車のナンバーを記録させ、他の場所の映像と照合して一致するナンバーがあれば、当たりですね」


「それ、どのくらいで終わる?」


「そうですね……照合まで含めて三時間もあれば可能かと」


 科乃しなのが壁に掛けられた時計をちらと見やると、現時刻は午後十時になろうかというところ。それを鑑みて、硝磨しょうまはやり取りを記録していた綾希子あきこに声を掛ける。


香村こうむらさん、今日はもう、上がっていいですよ」


「え、でも、皆さんはまだ続けるんですよね……?」


 綾希子としても、力不足ながらこのSIRの一員として、自分だけが休むのは心苦しいものがあった。それに加えて、彼女には上への報告の必要もあり、彼らのやり取りをできるだけ聞き逃したくないという思いもあった。


「オレたちもちゃんと休みますから、心配しないでください。香村さんもしっかり休んで、また明日来てください」


「……はい。お疲れさまでした」


 四人に見送られながら部屋を後にした綾希子は、彼らとの間にある疎外感をどうしても意識せずにはいられなかった。当然、彼らとは育ちも違えば能力も違う。役目も違う。それでも、SIRの一員としてもっとできることがあるんじゃないか。今のままでは、この先もずっと、本当の意味でSIRの一員にはなれない気がする。そんな事を考えていた。


「さて、わたしはもうひと眠りするかなー」


「お前、さっきまで寝てただろ。また寝るのか?」


 部屋の奥へ行こうとする科乃に、硝磨は呆れたようにため息を吐いた。この部屋の奥にある扉の向こうは居住スペースになっており、彼ら四人はそこで生活している。徹底して彼らを外に出さないようになっている仕組みを、彼らも理解して、それを受け入れている。彼らにとってみれば、“スクール”にいた時とあまり生活に変わりはないので、特に抵抗もなかった。


「いいでしょ、別に。休める時に休まないと」


「では私も、この間にシャワーを浴びてきますかね」


「アタシはなんか夜食作っとくから、皆で食べなよ」


「いや、夜食の前に夕食を食えよ……」


 解析、照合の結果が出るまでの間を一時の休息として、彼ら四人は居住区へと入っていった。


 つかさの後に自分もシャワーを浴びようかと洗面所の扉を見れば、提げられたボードには既に予約が入っていることが示されていた。一つしかない浴室を四人で使い、かつ事故が起こらないようにするための工夫として、現在使用している人、次に使いたい人、という項目をボードに設け、扉に提げている。自分の名前が書かれたプレートを該当箇所に貼れば、事故は未然に防げるというわけだ。

 仕方なく、硝磨は自分の部屋に戻ってもう一度情報の整理をすることにした。


 最初の事件は東京都で起きた。昨年十一月二十五日、国分寺こくぶんじ東恋ヶ窪ひがしこいがくぼの公園にて、近隣住民によって両腕が切断された若い女性の遺体が発見されたことから始まった。

 その四日後の二十九日、そこから四キロほど離れた国立くにたち市富士見台ふじみだいの団地の一室にて異臭騒ぎがあり、頭部を切断された若い女性の遺体が発見された。解剖の結果、この遺体は実際には二日前に殺害されていたことがわかった。

 そして十二月三日、府中ふちゅう白糸台しらいとだいのマンションのごみ集積所にて、住民によって頭部及び四肢を切断された若い女性の遺体が発見された。手口の同様さから、警視庁はここまでの三件を連続殺人事件と断定。

 犯行はすべて夜間に行われたものと見られ、死因はいずれも頸動脈切断による失血死。遺体は切断されていたものの、切断された部位はすべて同じ場所で発見され、隠そうという意思は見られなかった。近隣の監視カメラの映像は消されており、犯人の特定までにおよそ二か月を要した。

 現場の目撃情報から人物像、足取りを洗い出し、特定された犯人は、埼玉県所沢ところざわ上新井かみあらい在住の無職、稲葉いなば善郎よしろう、四十一歳。しかし、警察が稲葉の自宅へ強制捜査に入ると、稲葉は自宅で既に遺体となっていた。室内は空気を通さないようにあらゆる隙間にガムテープが貼られ、密封されていた。既に一部白骨化が進んでおり、死後一か月以上は経っていたと見られ、解剖の結果、死亡したのは十二月六日前後と判明した。稲葉の死因は頸動脈切断による失血死であることも、解剖によって判明した。


 二つ目の事件は神奈川県。昨年十二月一日、横浜よこはま青葉あおばかきだい、柿の木台遊水池にて、右腕右脚を切断された若い女性の遺体が発見されたことから始まる。この辺りは通学路になっており、近隣の中学生が登校中に発見し、通報した。

 その三日後の十二月四日、川崎かわさき麻生あさお金程かなほどの住宅にて、頭部を切断された若い女性の遺体が発見された。同居していた母親が夜勤から帰ってきた際に発見し、通報した。死後三時間程度だったという。

 十二月十一日、川崎市中原なかはら苅宿かりやどの若草第一公園にて若い女性の頭部と両脚、向かいの第二公園にて胴と両腕が別々に発見された。

 神奈川県警は手口の同様さと、いずれも腹部を開かれ、卵巣を摘出されていたことから、連続殺人事件として捜査を進める。被害者の殺害された時刻は一様ではなかったが、死因はすべて頸動脈切断による失血死。

 現場付近で目撃情報のあった男を重要参考人として手配するが、男は横浜市都筑つづき東山田ひがしやまだ四丁目の自宅で死亡しているのが発見された。DNA鑑定の結果から、三件の現場に残された毛髪と男のDNAが一致し、船岡ふなおか一沙いっさ、無職、四十三歳を犯人と断定。船岡の死因は頸動脈を切断されたことによる失血死。


 三つ目の事件は埼玉県。一件目は、今年一月の二十一日、富士見ふじみ西にしみずほだいの住宅の一室で、一人暮らしの若い女性が両足を切断された状態で発見された。連絡が取れないと友人から通報があり、駆け付けた警察官によってその遺体が発見された。

 その五日後の一月二十六日、所沢市東所沢ひがしところざわ三丁目の住宅で両足を切断された若い女性の遺体が発見された。同棲していた恋人が帰宅時に発見、通報した。手口の同様性から、埼玉県警は連続殺人事件と判断。また、県を跨いで連日起きていた連続殺人事件との関連性も調査に入る。

 しかし、一月三十一日、志木しき本町ほんちょう六丁目の住宅にて頭部及び四肢が切断された若い女性の遺体が発見された。さらにその翌日、隣のアパートの一室で二階のベランダから血が垂れてくると通報があり、駆け付けた警察官が部屋で男が死亡しているのを発見した。男は頸動脈を切断されたことによる失血死で、三件の連続殺人と同様の殺害方法であったが、四肢や頭部は切断されていなかった。そして初めての男性の被害者であったことが捜査を極めて困惑させたが、解剖、鑑識の結果、この男、尾立おりゅう大輔だいすけ、四十一歳、無職が犯人であったことが判明した。尾立が犯人と判明したのは、尾立の遺体が見つかってから一か月以上が経った、三月六日のことだった。


 そして現在進行中と思われる四つ目の事件は再び神奈川県で発生した。最初の一件は二月五日、横浜市さかえ上郷町かみごうちょうの公園にて、頭部の切断された若い女性の遺体が発見された。

 二件目は二月二十日、鎌倉かまくら由比ゆいはまの公園にて右脚の切断された若い女性の遺体が発見された。手口は以前の連続殺人事件の時と同様であったが、神奈川県警では、期間が空いていたことや、証拠が少なく断定できないことから、この時点では連続殺人事件とは認められなかった。

 そして本日、三月十五日、三件目である事件が起きた。逗子ずし小坪こつぼ一丁目の住宅で若い女性の遺体が発見された。頭部を切断されており、手口の同様性から、連続殺人事件と断定。県を跨いだ以前の三件の連続殺人事件の犯人の連続殺人事件をSIRに捜査移譲中だったため、この事件も関連する事件としてSIRに捜査移譲されることとなった。

 この四つ目の連続殺人事件の犯人が、恐らくこの数日後に殺害されるであろうということだが、案の定、神奈川県警では犯人の特定はおろか、人物像も洗い出せていない。


(県内の三件の事件はそれぞれの現場が思ったより近いな。普通はこれだけの狭い範囲だと犯人も特定されやすいが……。そして犯人はいずれも無職の四十代男性、か。それに対して殺害されているのは二十代女性。“母親”……。四十代男性の母親であれば、現在は六十代くらいと推測されるが、“スクール”は発足して四、五十年で消失した研究組織だ。その出身者が六十代とは考えにくい。それに、初期の頃の検体はまだ遺伝子操作の副作用が強く、長くは保たなかったと聞く。となると、“犯人”はオレたちと同様二十代、ともすれば十代ということも……)


 “犯人”の性質は恐らく“母親”で間違いないはずなのだが、あまりしっくりと来ない。それがもどかしくて、硝磨は一人、部屋で悶々としていた。そこへ、扉をノックする音が聞こえ、入室を促す。


「室長、シャワー空いたよ」


 訪問者は、その濃い茶色の髪を、まだしっとりと湿らせたままの科乃だった。司の次は玲桜れおになっていたはずで、科乃は少し寝ると言っていたはずだが。入ろうと思っていた自分の順番が、いつの間にか一番最後になっていることに苦笑して、硝磨はゆっくりと腰を上げた。

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