1-3.
* * * *
――同日、午後九時頃。
「
「鎌倉から三浦半島にかけて既に二件発生。未だ犯人の人物像も不明。そしてちょうど今日の午後六時頃、三件目が起きた。現場は神奈川県逗子市。詳細は添付資料にて、か。この連続猟奇殺人事件も、今回の事件に関係ありそうだな」
「これまでの流れだと、三件の殺人事件を起こした後に犯人が殺されてる。この事件もこれで三件の殺人事件を起こしたことになるから、次に殺害されるのは、この連続猟奇殺人事件の犯人の可能性が高いってわけね」
「犯人が殺されるまでは約三日前後。一日程度のズレはあるが、毎回このくらいの期間で殺害されている。それまでの間に我々でこの四件目の連続猟奇殺人事件の犯人を特定し、先回りして“犯人”を捕まえるぞ」
硝磨は寝ている科乃を除いた三人を集め、この事件について気づいた点を洗い出すことにした。後で科乃が起きた時に議論の内容がわかるように、綾希子には書記官を任せた。
まず手を挙げたのは
「私が気付いた点は二つ。まず、被害女性についてです。被害女性の外見的特徴が、それぞれの事件の中で一致しているという点です。例えば今回の事件。この被害者三人の見た目はかなり似ています。彼女らのSNSのアカウントを調べましたが、性格的な部分にも似たものがあると思われます。同様に、東京で起きた三件の事件も三人の被害者の外見や性格は似通っており、埼玉で起きた三件、神奈川で起きた別の三件も同様です。興味深いのは、これは今回の事件の被害者三人と、別の事件の被害者三人の特徴とはまったく異なるという点です」
「つまり、被害女性の特徴はそれぞれの犯人特有のもの、ということか」
「好きなタイプか、嫌いなタイプか。どちらにしても、誰かを重ねてたりしたんだろうねぇ」
二人の意見を踏まえて、司は続ける。
「もう一つの点ですが、今度はこれまでに殺された犯人の方です。遺体の状態の悪いものもあったので、すべてに共通するかどうかはわかりませんが、身体に数か所の火傷の痕、背中や腕、足に切創及び刺創、一部 骨の変形も見られました。これらの傷は人為的なものである可能性が高く、日常的にいじめや虐待を受けていた可能性があります。恐らく今回の犯人にも、同様の経験や傷跡があるのではないかと思われます」
「でも確か、犯人と被害者には接点はなかったんでしょ?」
「警察の捜査で浮上するような、社会的な表立った関係性はないらしい。日常的ないじめや虐待があったのなら、仮に隠れた関係があったとしても、その関係そのものが直接的な原因ではないだろう」
すると、何かに気付いたように綾希子が遠慮がちに声を上げた。
「あ、あのぅ……犯人はどうやって被害女性に出会ったんでしょうか? 被害女性は容姿や性格が似ているんですよね? ということは、通り魔的犯行ではないということですよね?」
鋭いところを突かれて、三人は逆に一瞬呆けてしまうが、硝磨はすぐに司に確認を取る。
「司、彼女らのSNSでは住んでいる場所を公開しているのか?」
「いえ、全員が公開しているわけではありませんので、SNSからの特定は難しいかと……」
「そうなると、確かにどうやって……」
「教えてもらったんだよ」
うんうんと悩んでいたところに、寝ぼけたような声が投げかけられる。一斉に声の主のいるソファの方へ振り返ると、起き上がって背もたれに身体を預けた彼女が、綾希子から資料を受け取っていた。
「全部の事件に言えることだけど、犯人は全員、“犯人”に教育されてる。全部が全部、“犯人”の入れ知恵。たぶんだけど、嫌いな奴かどうかはさておき、“犯人”に、“こいつ殺して、ここにいるから”って教えてもらって、殺し方の手順や逃走経路まで、すべて指示を受けている。そう考えないと不自然なことだらけだよ。でなければ、全員が全員、警察が手も足も出ないほどの超狡猾な殺人鬼ってことになるけどね」
科乃の指摘に、硝磨も付け加えるように続けた。
「なるほどな……。オレもその意見に賛成だ。司の指摘を踏まえたオレの見立てでは、この“犯人”は“母親”なんだと思う。本当の母親ではなく、母親的存在だ。恐らく、犯人は幼いころに実の母親から虐待を受けていた。何らかの形で母親とは別れ、現在は一人で生活している。そこでどうやってかはわからないが“犯人”と知り合った。“犯人”は彼らの理想の母親像になりきり、彼らと主従的な関係を築き上げた。恐らくだが、資金援助はしていると思われる。犯人はいずれも無職だが、生活保護などを受給してはいなかった。完全に社会から孤立した状態だったにもかかわらず、生きていけるだけの財力があった。それは“母親”からの援助だったと推測できる」
「惜しいね。“母親”が彼らに与えたのはお金だけじゃないよ」
彼女の指摘が何なのかわからず、四人が首を傾げていると、彼女は得意げに微笑んで見せた。
「愛だよ。母親から息子への、愛」
「どういうこと? 最終的に息子殺してるのに?」
「理想的な母親がいたとしたら、自分はどうなりたいと思う? 当然、理想的な息子だよね。では理想的な息子の成すべきことは何か。それは親孝行だよ。その親孝行が、死ぬこと、ひいては“母親”に殺されることだったってだけ」
「えぇ……どういうこと……?」
科乃の返しに、ますます訳がわからなくなって、玲桜は思わず頭を抱えてしまう。
「理解し難いですね……感情の問題は。ちなみに、しぃちゃんがそう考える根拠はあるんですか?」
「あ、ハッチーってば、わたしのこと疑ってるのー?」
「いえ、そういうわけではありませんが」
茶化す科乃に苦笑しながら司が返すと、彼女は真面目な顔つきに戻り、淡々と話し始めた。
「犯人の殺された状況だけど、死を受け入れているようだったって、レオが言ってたでしょ? 言い換えれば、望んで殺されているってこと。それは諦観ではなく、満足感だったとわたしは考えるかな。何故なら彼らが死ぬことにも意味があるから。もし彼らが死なずに警察に捕まりでもしたらどうなるだろう。余計なことを言ってしまうかもしれない。これは共犯者の心理に近い考えだね。そうすると、“母親”に迷惑がかかる。だから捕まる前に、口封じとして死を選択する。恐らくだけど、殺害を実行させる前に、あらかじめ死んでもらうことを伝えているんじゃないかとも思う。それらをすべて踏まえた上でのこの一連の殺人事件なんだろうね。だからこそ、“犯人”は“母親”なんだよ」
少しわかってきたというように、玲桜が戦線復帰する。そういえばと、新しく届いた資料を漁り、科乃に差し出した。
「これなんだけど、犯人は“犯人”と電話のみでやり取りをしてたみたい。同じ番号との通話履歴が何回も残ってるけど、メッセージとか、話の中身がわかるものは一切残ってない。写真もそう。でね、犯人と“犯人”がどうやってコンタクトを取っていたかをアタシなりに考えてみたんだけどさ、直接会ってたんじゃないかな。目撃情報はまだないんだけど、実際、犯人の借りてたアパートの鍵が貸してた数より一本足りないそうなの。これって残り一本は“犯人”が持っていて、犯人の部屋に出入りしてたってことじゃない?」
「確かに、その可能性はあるね。ハッチー、監視カメラの映像って、どこまで消されてるんだっけ?」
科乃が尋ねると、少々お待ちを、と司が地図データと映像ファイルを照合して、壁面に備え付けられた大型モニターに映し出す。殺風景な部屋ではあるが、他のどの部署よりも設備は充実している。それもこれも、彼らがこの部屋から出る必要を失くすためだと思うと、綾希子は少し複雑な気持ちだった。
「えーと、現場となった犯人の自宅から、その周辺二百メートルくらいですね。被害女性の発見現場からも同等範囲の映像が消されているようです」
「大体地区一個分くらいか。これだけ周到な犯人だ。消すのが手間だったとか、消せなかったとかでなく、それ以上は消す必要がないと考えたと思っていいだろう。となれば、移動手段は恐らく……」
「車、ですね。車なら、監視カメラ程度の解像度では車内までは映りません。そして殺された犯人達は車を所持していない。となれば、車を所持していたのは“犯人”ということになります。事件は東京、埼玉、神奈川の三件に渡って起きていますから、その間の移動も車を利用していると考えていいでしょう」
一つ一つの事実から仮定を重ね、推測を立てていく。可能性という分岐にまた別の可能性の分岐を掛け合わせ、限られた証拠や状況証拠から道を絞り、現実的な道筋を導き出す。この過程を、通常の捜査本部に比べ、何十倍、何百倍もの早さで行っていく。これがSIRの一つの強みでもあった。
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