1-2.
「しなのーん、いい?」
「はーい」
「さっきハッちゃんが言ってたけど、今回の事件の傷口が不自然なくらいに同じだったじゃん? それで現場の状況を思い出したんだけど、三件とも同じで、被害者は椅子に座った状態で、死因は頸動脈を切られたことによる失血死。現場に争ったような形跡はなし。傷の大きさはほぼ同じ。……これって結構不自然なことじゃない?」
「被害者は全て男性。それも、連続猟奇殺人事件を起こすような。にも関わらず、寝込みを襲われたわけでもなく、無抵抗で殺害されている。ってところ?」
「そうそう。一応、薬物の類は検出されてないみたいだし。これってさ、死を受け入れてるってことじゃないかな」
「死を受け入れてる、か……。罰、解放、諦め……あとなんだろ」
玲桜の導き出した仮説に、科乃は合致しそうなキーワードを考えていく。これが玲桜と科乃で行う推理の仕方だった。というよりも、玲桜の考えを整理するために、科乃の頭脳を利用していると言った方が正しいのだが。
「んー、なんかどれも違う気がするなぁ。三件すべてに当てはまるとは思えない。ここまでの状況の一致があるなら、恐らく心理的な状況も同じだと思うんだけど……」
「共通点はそれだけじゃないですよ」
彼女らのやり取りを聞いていた
「連続猟奇殺人事件の方は、被害者はすべて二十代前半の女性。胴体から四肢と頭部のいずれか、または両方が切断され、腹部は開かれて卵巣が摘出されていました。この摘出された卵巣は未だ見つかっていません。それぞれの犯人が起こした事件もちょうど同じ三件ずつ。これも偶然とは思えません」
「卵巣を摘出って……何がしたかったの?」
「実際の目的はこの卵巣にあって、四肢や頭部を切断したのは、猟奇性を意識させてカムフラージュするためかもしれないね」
科乃の仮説に、玲桜はますます訳がわからないといったように頭を抱えてしまう。そこに、
「これも共通点だが、今回の事件の被害者三人、つまり殺害された連続猟奇殺人犯たちの衣服に長い毛髪が付着していた。DNA検査の結果、やはり同一人物のもので、二十代から三十代の女性のものであることがわかった。ちなみに、連続猟奇殺人事件の被害女性のものとは一致しなかった」
「じゃあ、その女性が三人を結ぶ何かってことかぁ」
「共犯、支援者、犯人、愛人、あとは……キャバ嬢とか?」
淡々と関連しそうな単語を紡ぐ科乃の言葉を聞いて、硝磨は彼女の要望を思い出していた。
「……科乃、お前、ここまでわかってて被害者の過去を調べさせたのか?」
「まぁねー。これで何らかの共通点が出てくればいいなぁと思ったけど、どうかなー。今回の犯人、結構手強そうだからね」
「……やはりオレたちと同じ、“スクール”出身者の可能性か。もしそうなら、一筋縄ではいかないかもしれないな」
お互いの詳しい過去は詮索しないのが、このSIRでの暗黙の了解。故に、お互いが“スクール”の出身者であるということは知っていても、それ以上のことは知らなかったりする。ただ例外的に、彼女のことに関しては“スクール”出身者の誰しもが知る存在でもあった。
「そんな相手に、“最高傑作の天才”はどう立ち向かう?」
皆の視線が一斉に科乃の方へ向くと、彼女はそれを振り払うように、さっきまで自分が座っていたソファに再び寝転がった。
「もー、やめてよね。わたし、その呼ばれ方嫌いなんだから。それに、皆だって共犯者みたいなものでしょ? わたしの頭が完璧じゃないから、皆がいるんだし」
彼女が定位置に戻るのを皮切りに、玲桜の机に集まっていた司と硝磨も自分の机に戻っていく。そんな司は回転椅子に深く腰掛けると、瞼を重そうにしている科乃を微笑ましそうに眺めて、ぼそっと溢した。
「せめて仲間って言ってほしいですねぇ……」
「はいはい悪かったね、ハッチー。じゃあわたし、ちょっと寝るから」
「ええ、おやすみ、しぃちゃん」
寝ると宣言した科乃は、その言葉通り、ソファに寝転がったまま、やがて穏やかな寝息と共に意識を落とした。
“最高傑作の天才”たる彼女は、その脳力の高さは人間離れしたものがあるが、同時に膨大なエネルギーを必要とする。そのため、よく食べてカロリーを摂取するのだが、補いきれない部分は睡眠によって回復させるしかないのである。そんな彼女の事情を理解しているからこそ、SIRでの彼女の睡眠は容認されている。元々SIRという組織自体が彼女あってのものであることも、皆が皆 理解し、承知していた。
* * * *
夢を見ていた。昔のことを夢に見るなんて初めての経験だったが、案外悪い気はしない。今思い返せば辛い記憶のはずなのに、悪い気はしない。
注射、検査、テスト、トレーニング。色んな人に、色んな機械。それが当たり前の日常で、それがすべてだった。外の世界を知る術は、人から伝え聞いたり、本やテレビだけ。窓もない、殺風景な檻の中。今となってはそう表現できる。
愛がわからない。愛を求めている人がいる。そんな人に、愛を与えてあげたい。でも、愛がわからない。わからないから、知りたい。知るために、何度でも試す。そして見つけていく。本物に近づいていく。これが自分なりに見つけた、愛の形。
「もしもし? えぇ、見ているわ。すごいじゃない。これで三人ね。ちゃんとやり遂げて、えらいわね。うん、あなたが誇らしいわ。じゃあ、ご褒美をあげないといけないわね。ええ、もちろん。ママはあなたのこと、とっても愛してるわ。じゃあ、ね」
通話を切った携帯を片手に、私はテレビのリモコンでチャンネルを無造作に変えてみる。どこの局でも取り上げられている、彼の偉業。これで四人目。さすがに警察も私を放ってはおけないだろう。きっと彼女らにも知られている。それでも、“最高傑作”だろうと何だろうと、私の愛は誰にも邪魔させない。
愛を求めている人がいる。だから私は、愛を与える。
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