第3章:ベルという名の星

登録から数日後、一真は勇気を出して、気になるプロフィールの女性十人ほどに、丁寧なメッセージを送った。鉄道の話を切り口にしたものもあれば、プロフィールの趣味を読んで質問するものもあった。返信は三通。その中に、特に彼の心を捉えるメッセージがあった。


差出人は「ベル」。年齢45歳。プロフィール画像は、夕日に染まる海辺の風景写真。自己紹介文は簡潔で、「穏やかな時間を大切にしています。音楽と散歩が好きです」とだけあった。


ベルからの最初の返信は、一真の鉄道写真への称賛から始まった。「素敵な写真ですね。力強さと繊細さが共存しているようで、見とれてしまいました」。その言葉の端々に感じられる、落ち着いた温かみに、一真はすぐに引き込まれた。


メッセージのやり取りは、毎日のように続いた。同時に連絡を取り合っていた他の二人の女性とは、自然とメッセージの間隔が空き、やがて途絶えていった。ベルとの会話だけが、濃密に、確実に続いていった。


二週間が過ぎた頃には、二人の会話はすっかり打ち解けたものになっていた。ベルは仮名の由来を、「実家で飼っていた犬の名前から取ったの。懐かしくて」と打ち明けた。一真が「プリウスは家族の車の名前です」と返すと、ベルは「素敵ですね。家族を思う気持ちが伝わってきます」と返してきた。


ある日、ベルが「息子も鉄道が大好きで、小さい頃はよくプラレールで遊んでました」と書いてきた時、一真は胸が高鳴った。偶然の一致が、不思議な親近感を生んだ。他にも、好きな作家、苦手な食べ物、雨の日の過ごし方…些細な好みや考え方の一致が、次々と見つかった。一真は、これほど自分と波長が合う人に初めて出会った気がした。それを不審に思うよりも、むしろ「運命かもしれない」という甘い幻想が頭をよぎった。


顔も知らない、声も聞いたことのない相手なのに、スマホの画面を通じて、ベルという存在が、一真の日常に確かな温もりとして染み込んでいった。彼女のメッセージが届く通知音は、一日の最も楽しみな瞬間になった。


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