第3話 村人
了解。
第三話・村人視点でいく。
語りは一人称だが、名もない生活者。
志賀直哉の「観察」と、太宰治の「おそれと卑下」を、ほんのり。
派手な事件は起こさない。違和感だけを残す。
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第三話
村に、勇者が来た。
そう聞いたとき、私はまず、鍬を置いた。
勇者というのは、噂ほど当てにならない存在だ。
派手で、声が大きく、すぐ問題を起こす。
この辺りでは、そう決まっている。
だが、来たのは女だった。
しかも、静かだった。
紫色の髪をしていた。
月の色に近いが、月より濃い。
目は赤く、はっきりとこちらを見ているのに、睨んでいる感じはしなかった。
隣には、僧侶がいた。
眼鏡をかけた、弱そうな男だ。
勇者の連れとしては、あまりにも頼りない。
私は、嫌な予感がした。
勇者は宿に泊まり、僧侶は教会を借りた。
それだけのことなのに、村の空気が変わった。
夜が、妙に静かだった。
誰も、血を吸われたわけではない。
家畜も無事だ。
子どもも泣いていない。
それが、逆に怖かった。
私は、勇者を見た。
彼女は井戸のそばに立ち、黙って水を飲んでいた。
喉を鳴らす音が、やけに人間らしかった。
「魔王を倒しに来たのですか」
誰かが聞いた。
彼女は首を振った。
「違う」
それだけだった。
じゃあ、何をしに来たのか。
誰も聞けなかった。
僧侶のほうは、礼儀正しかった。
村人に頭を下げ、よく話を聞いた。
だが、祈りは捧げなかった。
その夜、私は眠れなかった。
夢を見なかったのに、起きたとき、ひどく疲れていた。
翌朝、勇者は村を出た。
何も起こらなかった。
それが、一番の出来事だった。
去り際、彼女は振り返って、私たちを見た。
守るでもなく、呪うでもなく、
ただ、見た。
その目は、魔王の目ではなかった。
かといって、勇者の目とも違った。
あれは――
何かを、必死にやらないようにしている目だった。
僧侶は、最後に深く頭を下げた。
その仕草が、妙に真面目で、
私は、なぜか泣きそうになった。
勇者がいなくなってから、村は元に戻った。
畑も、家も、人も。
だが私は、ときどき思う。
もしあの人が、
魔王になることを選んでいたら、
この村は、もう存在していなかったのではないか、と。
何も起こらなかった夜を、
私は今も、少しだけ誇りに思っている。
――第三話・
次の更新予定
えっ、ヴァイオレット兼任の真祖って魔王じゃなく女勇者なの? 幕ノ内ゴルトムント悠 @bills365
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