第2話 僧侶パブロ河田
第二話
私は、僧侶である。
正直に言えば、信仰は、熱心な原理主義者だ。
祈るより、正しく読む。読むより、正しく祈る。
右手を大切にする。
クリスチャンの初心者は、キリストと日常の意味付けを行う。
そして、信仰の迷いのなか、眠れぬ夜を過ごす。
クリスチャンの中級者は、聖書と、世界や、現実を同一視し、日常のなかで、戒律を見出すようになる。
神が偉大になる。神が怖く恐ろしくなる。
上級者になると、神とともに苦しむのが喜びになる。
これは、神の支配でも、服従でもない。
神によってゆるされることを、知っているものがしたがる行いである。
彼は、男だ。論理的で、繊細。鍵盤に触れていた時間のほうが、きっと長い。
それでも私は、僧衣を着ている。
彼女――いや、彼女は自分のことを「私」としか言わないので、私もそう呼ぶ――は、奇妙な存在だった。
紫色の髪。
赤い眼。
吸血鬼の真祖。
普通なら、剣を向けるべき相手だ。
だが彼女は、魔王ではなかった。
それどころか、勇者を名乗っている。
何故彼が、自分への冒涜とも思える存在をゆるしたのか?
彼女が改心し、キリストのしたにつこうとしていることが、見ただけでわかり、嬉しくなったからだ。
最初にそれを聞いたとき、私は笑いそうになった。
不謹慎だが、あまりにも理屈が合わなかったからだ。
「魔王をやめてくれてありがとう」
私は、ついそう尋ねてしまった。
彼女は少し考えてから、肩をすくめた。
「うん。もう散々だわ。やめたいの」
この人は、正気ではない。
だが、狂ってもいない。
その中間に、妙にきれいに立っている。
私は彼女と並んで歩くたび、少しずつ安心していく自分に気づいて、怖くなる。
吸血鬼に慣れる僧侶など、信用できない。
彼女は血を吸わない。
それは事実だ。
だが、吸えることを、忘れていない目をしている。
だから私は、祈る。
神に、。
この旅が、彼女を魔王にしないまま、終わるように。
夜、彼女は杖を磨いていた。
青い光が、静かに脈打っている。
「あなたは、怖くないのですか」
私は、少しだけ勇気を出して聞いた。
彼女は、笑った。
あまり上手な笑い方ではなかった。
「怖いよ。だから勇者をやってるの」
その答えが、私にはわからなかった。
だが、わからないまま隣にいられる、ということが、
この旅の救いなのだろう。
私は僧侶だ。
癒す役目を与えられている。
だが本当は、
癒されているのは、いつも私のほうなのかもしれない。
そう思うたび、
神に申し訳ない気持ちになる。
だから今日も、私は祈らない。
本を読み、歩き、
彼女の背中を見ている。
それが今の、私にできる、精一杯の信仰だ。
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