第3話


「体が痛い」

「当たり前だホゥ! ぼくあんなに止めたのにこんなところで寝るから! 大体神子様がどうしてあんなに眠気に負けちゃうのさ!」


 肌に触れた朝露の冷たさに目が覚めるとそこはひんやりとした石の上で、わたわたと暴れるぬいぐるみを抱き上げながら目を擦れば、ほーちゃんが随分とご立腹の様子だった。

 一晩中がっちり抱きしめて身動きが取れなかったせいか。抱き枕がないとぐっすり眠れないんだよね。


「まぁ確かに数日くらいなら食事睡眠なしでも問題ないんだけど、私ここに来るまで八回夜が明けるまで徹夜だったし、さすがに一週間以上寝ないのは神子でも堪えるって」

「ホー……なんっでそんな不摂生……ああああっぼくの心核の石のせいだぁあっ」


 なんだか一人で嘆き始めたほーちゃんを宥めつつ、今日もやることは一つである。

 さ、家作るぞ。



「すごいなぁ、すごいよブロック建築って! ティア様の錬金術はとっても面白いホー!」

「私のアイディアじゃないけどね」


 錬金部屋とそこから繋がる倉庫、廊下の一部とトイレを作った辺りで、ほーちゃんが弾む声を上げた。

 私を愛称で呼び興奮しきりだったほーちゃんがぐるぐると周囲を飛びながら作ったばかりのドアに頭を擦りつける。どうやら気に入ったらしい。


 ちなみにドアは木材ブロックを適当な大きさに並べた後、彫のデザインまでこだわってブロック錬金で創造したこだわりの逸品だ。

 まぁ拘ったと言っても母の錬金部屋の扉の模倣なのだけど、彫りこまれた樹木と花々はアレンジでなかなかいい出来だと思う。


 テーブルとイス、棚も適当に作ってみたが、今のところ部屋はがらがらで殺風景だ。


 ちなみにトイレは昔友人と相談して拘り抜いた設計であり、レバーを捻れば浄化の水が流れ清潔さを保てるという、穴の開いた椅子のようなものをブロック錬金で創造している。

 浄化の水で流してしまえば、土をブロック化することで掘った穴の中で無害な肥料に勝手に錬金されるという優れもの。

 神子仲間とあーだこーだと弟子を取った後の夢をアツく話し合ったときに生まれたアイディアを採用だ。

 今思えばあれは十日徹夜した謎のテンション故だった気がする。何で将来の弟子のトイレ事情を熱く語っていたのだろう。


「屋根はぺったんこなんだね、二階も作るの?」

「うん、いつかね。ブロックをこう、斜めに切れば三角屋根もできそうなんだけど。なんだっけこれ、とうふハウスっていうんだったかな? とうふがなんだかわかんないけど、食べ物なんだって」

「食べ物の家? 四角いのかな」


 不思議そうなほーちゃんがくにくに首を傾げている様子に癒される。

 確か友達がとうふとやらのレシピをくれたのだと思い出して、素材……じゃなかった、食材が集まったら作ってみるのもいいかもしれないと思いつき、次に手を付けるのはキッチンと決めた。


 ……と思ったが、そろそろ石のブロックの数が心もとない。この周辺の目に見える範囲でしか探していないので当然か。

 とりあえず木材で作って、弟子に詳しく聞いて整えるのがいいかもしれない。だって私だと料理が面倒で、錬金部屋の釜で食べ物を作り出してしまいそうなので。


「他に何が必要かな。あ、まずは井戸か。となるとやっぱり石ブロックがもう少し欲しいな、土に混じってる石も分けてブロックにしちゃおう」

「井戸だと、たぶん水を入れるものも必要かな?」

「あ、そうか。えーっと本で見たことある……けどどんなのだったかな。普通に魔法で生み出した方が早いから、詳しくないんだよね」

「あれ、井戸、いらなかった?」


 水源を見つけたほーちゃんがしょんぼりしているのを見て慌てて抱き上げながら、違う違うと首を振る。


「錬金術だと魔法で生み出した水が合わないこともあるから、この島の湧き水とか雨水を用意する必要はあったの。イメージで勝手にこう、湧き出る水を想像してたから井戸のしくみは覚えてなくて」

「一緒に考えるホー!」


 うんうん、と頷いて、紙に必要なものをメモしていく。

 水を掬うとなると、バケツみたいなものがあればいいのかな? なら風の魔法で浮かせて……って駄目だ駄目だ、人間は魔力をあまり自由に操れないんだった。


 とりあえずせっかく地下に水があるのなら、屋根をつけて石で囲って清潔に、ついでに落ちたりしないようにしよう。

 小屋にしたらいいのかな、とあれこれほーちゃんと相談しながらメモをとり、この日はそのまま夜をああでもないこうでもないと間取りを決めて過ごしてしまった。……あれ、弟子っていつ探しに行けるんだろうね。



「というかティア様、まず周辺の探索をしたらいいんじゃない? 新しい素材を見つけたらいい案が浮かぶかもホー」

「そうだね! じゃあ明るくなったら回ってみよう。そのうち近くに明かりを灯したいな、光綿花はあるけど、人間は光る照明道具がないととっても不便らしいから」

「ぼくは夜目もばっちりだよ! なんたって精霊だからね!」

「フクロウだからじゃないのか」



 そして迎えた次の朝。

 周辺を探索した私は、素材の多さに騒ぎながらも水の魔力の流れを感知し、忘れていたがある意味最重要である畑の区画をまず決めることになった。やっぱり話す相手がいるっていいね。



 神界から持ち出したグルーアの花は私のブロック錬金には必須のアイテムだが、この世界では自生していない。

 収穫済みのものと種は多めに用意しているが、育てる場所は必ず必要だ。



 忘れないうちにと木ブロックを並べブロック錬金で柵状に加工し、大雑把に場所を確保する。


 畑と言えばやはり水がなければいけない。

 錬金部屋の裏手を地下の水脈へとブロック化で掘り進め、中を覗き込む。うん、水発見! 出てきた出てきた。


 探索ついでに見つけた石ブロックを放り込み、大がかりなブロック錬金を行いなんとなく本で見たことがある井戸っぽいものを作ってみた。

 ついでに井戸を掘った時出てきた小石は全部下に放り投げて穴の底を埋め、石の合間から水が滲むのを確認。うんうん、それっぽいかも。


 そこでぱらぱらと雨が降り出し、即席で作った木の蓋で井戸を塞ぐ。

 水は水だが、雨水は直接雨水として集めておきたいので地下水と別に集める方法も考えよう。


 普通の井戸とやらは弟子を探しに行く途中で本物を見て覚えるか弟子に聞くとして、今は木ブロックのカクカクとうふハウスで囲っておけばいいだろう。順調にお水が溜まっているようで何よりだ。


 さらにその屋根の上には木で桶を用意し、表面を滑らかに整えて雨水が溜まるようにする。

 神子の島に降り注ぐ雨は『天の雨』と言って立派な錬金材料なのだ。



 この周辺の探索で、使えそうな岩の他に、少量の鉄鉱石と、炎に所縁のある魔力を宿した石炭、それに薬の材料となる薬草や木、花など、自生していた多くの素材を発見した。


 虫や動物たちもいるにはいるが、皆一様に動きが鈍いのは長くこの地が眠りについていた為だろう。


 当然ここに危険な野生動物などはおらず、今いる獣は皆私の眷属の扱いになるのだが、目覚めたこの地にもいずれ眷属ではない野生動物や虫たちが生まれ、活発になる筈だ。

 その時は命を戴くこともあるかもしれないが、なるべく自然環境は壊さないよう拠点の範囲はしっかり定めたほうがいいかもしれない。

 こんなにすごい素材の宝庫、見ているだけでも楽しいくらいなのだ。無くしてしまうのは惜しい。



 いくつか採取したものを素材そのまま、あるいはブロック化して運び出し、出来立ての倉庫に並べて置く。


「ティア様、終わったのなら中にいこう! 病とは無縁でも、濡れて冷えたままなんて身体の調子は崩れやすくなっちゃうよ!」

「はーい! ありがとね、ほーちゃん。さて、建築が雨で後回しなら、何か作ろうかな」


 そうだ、人の街では金銭が必要だ。

 薬をいくつか作って売って旅の足しにしようと、アイテムボックスに収めた神界で作って持ち込んだガラスの小瓶や木製ケースをテーブルに並べた。空き容器でも見ているだけでわくわくするのはなんでだろう。


 これに今日持ち出した薬草からポーションや薬でも作って、と思ったところで、自分の腕が赤くなっていることに気づく。


 纏った衣服は母に与えられたドレスなのだが、動きやすいよう丈の短いスカートとパフスリーブの半そでから伸びた手足が、赤い。

 少し考えて、ああ、と納得する。地上の日差しに負けたのだろう。


 神界では気にしたことはなかったが、神界に慣れたこの体は神に近く、だが神子は神ではない。


 地上には毒となるものも多い。神子の島ではだいぶそれが和らいでいる筈なのだが、まだ地上に降りたばかりで体がついていかなかったようだ。


 いつも防御の為の魔法を使うのも面倒だし……と考えて、作るものを決めた。


 集めた薬草からリグと呼ばれる花弁の多い植物を選び取り、余った木材で桶を二つ加工して、井戸の水と雨水を掬って戻る。

 ついでに井戸の傍に生えていた雑草も引き抜いて、材料はこれで準備オッケー、と。

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モノづくり趣味の錬金術師はほのぼの生活(予定!) 紫黄つなぐ @4n0o2v79

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