第2話
むき出しの地面の上、草をブロック化して露出した土に、杖で線を引きながらああでもないこうでもないと考えるのは、間取りだ。
そう、間取り! これを考えるのがまた楽しいのだ!
例えば、大きめの玄関から入ってすぐ繋がる廊下は広めに、壁に棚をつけて植物や小物で装飾したい。
左手に大きな部屋を作って、右手には採取帰りに素材の汚れをすぐ落とせる水場があって、お風呂場は別にもう少し奥。
大きな部屋にはテーブルや椅子も忘れずに。円卓がいいな……いや、丸だろうが四角だろうがどうせ座るのは一人だからつまんないんだった……いやいや、ここは理想と妄想をたっぷり詰め込んで夢のマイホームづくりに専念せねば。細かいことはあとあと!
そうだ、忘れちゃいけないのが、二階もそうだけど絶対必要な地下室。日光に当てないほうがいい錬金素材だってあるのだから、そこはしっかり作らないといけない。食材だって地下の方が保存には向いているだろう。あ、地下でキノコ栽培するのもありかも。
二階はゆっくりできる広めの寝室と、隣に書斎。天井をガラス張りにして温室のような部屋を作るのもいい。そこに小さなテーブルと椅子を用意して、ティータイムなんてのも理想的だ。となると耐久と透過度が高いガラスの錬金が必要かな? そうか、素材も考えながら間取りは決めていかないと。
錬金部屋は一階と地下を吹き抜けにして、螺旋階段で繋げてみたい。
床は……とりあえずただの石ブロックにして、素材が集まったらもう少し頑丈なものに作り替えよう。
壁も同素材にしたいけど、最悪どうしてもこの島に気に入る素材がなければ、外から素材をアイテムボックスに収納して持ち込むか。
あたたかみのある、木目の綺麗な木材がいい。
繋ぎになるグルーアと何か頑丈な素材を錬金で混ぜて新しい建築材に作り替えるのもアリ。
明るい色の木材ならきっと研究道具で溢れかえった部屋でも、陰鬱な空気にはならないかもしれない。となれば、窓にはめ込むガラスがやはり重要か。強度を高く作り上げなければ。……今はまだガラスなんてないから全面壁だけど。もちろん遮光カーテン付きがベスト。
よしよし、出来てきた出来てきた。ここから改良することも考えつつ準備開始だ。
とりあえず手持ちでいいや、と、先ほど近くで見つけた大きな岩をブロックにしたものを持ち込んで、それを杖で叩いてすぱっと二つに、立方体を半分に分ける。
これもブロック化の能力で、そのままだと分厚過ぎだったり、斜め位置で角ばらないよう調整できる、適度な大きさと形のブロックに整える為の力だ。
ついでに適当な木材ブロックも選んで同じ方向に四等分し、薄くなったそれを半分になった石ブロックに張り付ける。グルーアの糊大活躍。
外側が木、内側は石だ。強度は欲しいが木造りの温かみのある壁も捨てがたいと思う。今はただ見た目の都合だが、お気に入りの建築材を見つけたら、断熱加工や魔力遮断加工などを施してもいいだろう。……って要塞でも作るの? この島安全だったわ。
風が周りの草木を揺らして音色を奏でる。……静かだなぁ。
気を取り直してもくもくと同じブロックを用意したら、今度は家予定地の地面に床用の石ブロックを敷き詰めていく作業だ。
今は防湿に使える素材があまりないので、ひとまず変更できるように高さはブロック二つ分。地下作業はもう少し先。
一つのブロックを適当に土に埋め込んで、そこに水平と基点の魔方陣を魔力で書きつければ、そこから続くブロックは糊をつけて添えるだけで自然とずれも傾斜もなくずらりと並ぶ。……これよ、これ! 楽しい! 神界でも練習はしたけれど、今は本物の大地の上に綺麗にブロックが伸びている。そう、一列にずらりと。
「あ、やりすぎた」
調子に乗ってどこの屋敷のホールだと言わんばかりに石が一列に長く伸びすぎていた。慌ててぺんぺんと手で叩いて丁度いい長さまで石をブロックへと戻す。
一辺作るだけで糊の無駄遣いをしてしまった。適当なところで切り上げ、今度は別方向に伸ばしていく。
イメージとしては、ここは錬金部屋の一階部分。この辺りに本棚。あとで地下と繋げるとしてもひとまず錬金釜を置くスペースはその反対側として、テーブルや椅子、あ、疲れた時に休める大きなソファも欲しい。
アイテムボックスは素材が難しすぎてぽんぽん作れないだろうけれど、素材保管用に軽い拡張機能くらいはなんとかなるだろうから、倉庫に繋がる扉を直接繋げよう。あ、廊下ってどれくらいがいいんだっけ? 地面に書きなぐった間取りじゃちょっと感覚が掴めないじゃないか。
まぁ城を作りたいわけじゃないし、私にそこまでのセンスは期待していない。楽しければいいのだ。
「よし、こんなものかな」
土も草もなんの手入れもされていない森の大地の一部に、整った床が現れる。
空の太陽の位置を確認しながら、次は先ほど作った石と木のブロックを壁として配置していく。せっせと作業していたら六段目でブロックが足りなくなってしまったが、既に私の背丈より上までブロックが伸びているせいで少し腕が疲れてしまった。
休憩しよう、と周囲を見回して、はたとその閉塞感に動きが止まる。……扉の場所も塞いでいたようだ。
またか、と慌てて壁を数個ブロックに戻し、ふう、と息を吐く。
誰か指摘してくれる人が必要かもしれない。寂しいとかじゃない。
といってもここは神子の島の中。出かけるにしてもまだ準備が整っていない。例えば弟子を探して招くにしても、床と壁だけの小さな部屋しかない、こんな森の中に連れてこられても困るだろう。あ、トイレも台所も作らないとだ。神子はその辺りが少し人間に比べて曖昧過ぎて忘れていた。
バッグから紙を取り出し、休憩がてらそれに筆を滑らせて唸る。間取りの清書だ。
二階や地下も欲しい……けどそれは今は贅沢。一応間取りを書く練習はしていたけど、本当の建築に携わったことがある人から見れば笑ってしまうようなメモ書きだろう。友達は考えるよりまずは積めとか言ってたし。
適当なところで切り上げ、ぐっと腕を伸ばして同じ体勢が続いた体を解す。ぴょんぴょんと軽く跳ねたところで、さてとバッグに手を突っ込む。
取り出したのは母が縫ってくれた可愛い薄紫のフクロウのぬいぐるみだ。これこそ現状を変える一手。
もちろんこれも錬金術師である母が作り出したものなのだから、ただのぬいぐるみではなかったりする。
布地は錬金術で作り上げた防具用の最高峰の布をベースに使用したようだし、中身だって手触りがふわっふわになるよう選ばれた上質な魔力を含んだ綿なのだ。母が綿については何かいろいろ言っていた気がするが、あまりにも専門用語が激しすぎるので忘れた。母は語りだすと長すぎる。
さてここに核となる、神界で最後の試験として作った石を押し込んで、と。
「我が魔力を糧に宿れ精霊。名を受け取り仕えよ! おいで、『ほーちゃん』!」
私の声掛けと同時に魔力が凝縮し、強い光が手の内に生まれる。その光が収まると、手の内にいたフクロウのぬいぐるみは……バタバタと暴れて、ぴょん、と翼を広げ大地へと着地した。
「こんにちは、神子ティアーヌ様! ぼくの名前がほーちゃんなのは安直すぎてどうかと思うよ!」
「えっ、いきなり文句」
「もっとかっこいい名前にして」
「ほーちゃん可愛いよ? それにもう固定されちゃった」
「ショックだホー……」
いや、語尾がホーの時点で君も安直だ。まぁこの名付けの契約で来た精霊なのだから、そういうのが好みなのかもしれない。
その頭をよしよしと撫でれば、慣れたぬいぐるみの生地の柔らかさだ。
まんざらでもないのか気持ちよさそうに細められた瞳は私と同じ青の宝石で、確か私と兄弟姉妹みたいに仲良くなれるように揃いにしたのだと母が言っていた気がする。
この精霊を宿す為の石の完成が遅れたのは私がブロックに夢中になっていたせいだが、これは早くにチャレンジしたほうがよかったのかもしれない。すごくかわいい。
ホーホーと鳴きながらしばらく身体や動きを確認していたらしいほーちゃんが、ぴょんと跳ねて屈む私の膝上に着地する。
「それでぼくは何をお手伝いすればいい?」
「んとね、この辺りを弟子を迎えに行ける程度には整えたいんだけど、一人でやるといろいろ失敗しちゃって。ブロック錬金については……」
「概要はわかってるよ! これでもぼくはきみの魔力に選ばれた精霊だホー! 任せて!」
言うなりぱたぱたと飛んだ(飛べたのか、ぬいぐるみ……)ほーちゃんは、周囲をぐるりと回るとふわりと私の方へ戻りと、つんつんと布でできた柔らかい嘴で間取りを描いた紙を突きはじめた。
「あの石床がこの部屋なら、こっちの廊下は反対につけて!」
「え?」
「あの床の少し横に水の気配があるホー。水脈かな? 掘ればきっと井戸になる! ぼくはまだあまり錬金術に詳しくないけど、お水は大事でしょう?」
「あ、うん。へぇ、ほーちゃん飛べるし風の精霊だと思ったんだけど、水の方だった?」
「ふふん! ぼくは複数属性さ、すごいでしょう? ホー!」
うん可愛い。ふわっとした胸を張り、得意げな顔をするぬいぐるみを思わず撫でまわしたところで、悶えるように転がるほーちゃんを構いつつ、間取りに指先を当てる。最初に描いた部分を魔力を吸い取って消し、再度筆に魔力を込めて、錬金部屋を中心に位置をずらし書き直す。
「できた。これでどうかな?」
「大丈夫だと思う!」
精霊の太鼓判を得たところで、やることは決まった。
「寝よう!」
「えっ、建築を見せてくれるんじゃないの!?」
「なんだかんだやってたら夜だよ! 暗いよ! 疲れたから寝よう!」
「ぼくは夜型だホー!」
「フクロウだもんね」
ぬいぐるみだけど。いつも通り抱き枕になってねと抱き上げると大人しくなったほーちゃんを胸に、私は屋根のない壁と石の床だけの部屋にごろりと寝転んで目を閉じた。うーん、疲れ……た……
「こんっな冷えた固い場所で寝ないでホー! ちょ、扉もないよ! あんまりだホー!」
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