ライオンハートの復讐
復讐計画のためにも、最悪なミヌと仲良くならなければならない。ちなみに僕はまったく女性と付き合うところまで至ったことがない。そんな奴がつき合ったうえ振ってやろうというのだから、だいぶな出世だ。サクランボがライオンになろうくらいの革命だ。革命なんだからネットや雑誌なんか当てにするのではダメだ。だれでも革命家になれるなんて都合のいい記事はなく、だれでもなれるなら世のなかもっと酷くなっているか、よくなっていなければおかしい。
じゃあ、いくつか友人をあたってみるか。いややめておこう。僕に経験がないのに、友人に経験があるわけがない。類は友を呼ぶのだ。もしも経験があったなら、僕に報告すべきだし幸せをおすそ分けするべきだ。こっそり裏切っている奴なんて友人ではない。
こうなったらもっとちがう人に聞こう。そこらへんの廊下を歩いている生徒に聞くのがいいだろう。なるべく友達になれそうにない奴で、心にライオンを飼っている。もっといえば家でライオンを飼っている奴が好ましい。それくらいな人間のほうが、僕の革命にとっていい参謀になってくれるだろう。
こう考えてみたものの、いざ昼休みの廊下でティッシュ配りのように立ってみても、だれにティッシュを配るべきか見当もつかない。内外にライオンを飼っていそうな顔なんてなおさらだ。だからてきとうな男子生徒に声をかけた。
「あのお宅でライオンを飼っていますか?」
「犬くらいかな」
ネコ科でもないのかと、さっさとつぎへ声をかける。
「さすがにライオンは飼ってないな。トラは飼っているけど」
おしいな、サイコロで六の目をだしたくて五の目がでたくらいおしい。
でもそれだとなんの目が出てもおしいことになってしまうから、やっぱりおしくない。
というわけでつぎ。
「飼ってないね。剥製はあるけど。五億で売ろうか」
安いのか高いのかわからないので止した。
つぎつぎ聞いていくが、だれも飼っていない。
まったくどいつもこいつもライオンの一匹や二匹、飼っておくべきだ。こういう募集があったときにどうするんだ? 面接で落ちるぞ。
僕は近ごろの人の情けなさを嘆いた。しかしそこでむしろ僕に声がかかる。
あの……と気弱そうな少女。僕はおなじ轍はふまないので、もうなんの期待もしない。またこの少女は地味で、ショートヘアで、吹けば消えそうなものだから好みではない。
「なんだよ。僕を嫌いなのか?」
こう威嚇しただけで、なお小さくなって泣きそうなんだ。
まったくしゃきっとしてほしい。僕は忙しいんだ。もうライオンを僕のほうで飼って、それをミヌに売りつけようかという自棄まで起こしそうなんだ。
「あの私、ライオン飼っていて」
赤ずきん式にライオンの胃袋に収まっていそうな少女がまさかである。
「つくならもっとましな嘘をつけ。家に、八頭身の地球儀があって、地球の内臓がみえるようになっているだとか……」
「それもある。私の父親がおかしなもの集めるの好きだから。泳げるトンカチとか、ジェットコースター型の観覧車とか」
「証拠をみせろよ」
そんな簡単に傷ついた僕のうたぐり深さを絆せると思うなよ。
しかし僕の疑心を晴らすように、少女は携帯を示した。
そこには少女とライオンがたわむれていた。もしかしたら嬉しそうに笑いながら食われているだけかもしれないが、だとしたら目のまえの少女が幽霊である。幽霊をみつけた場合は警察にいえばいいのか。病院につれていくべきか。保険とか適応されるんだろうか。
いやいや、真剣になるには早い。
僕はまだ騙されないぞ。
「合成した画像なんじゃないのか?」
「じゃあうちに来る?」
「まさか僕をライオンの餌にしてしまうのか?」
「じゃあ、ライオンいるって信じるね?」
「あ、騙したな。やっぱり僕を騙そうとしているな」
「だいぶ騙されやすそうなことはわかったよ」
弱気かとおもえばだいぶ強気である。
この強気なあたり、どうも真実味がある。
なるほどライオンを飼うような奴は、あんがいこうしたひ弱そうな見てくれなのか。
なんだか説得力だな。
よし、信じよう。
「で、噂になっていたけどなんでライオンを探しているの?」
「飼い主を探していたんだ」
「なんで? あなたもライオンを飼うの? 餌代高いよ。指かじられるよ」
「指なくなったのか?」
「私はだいじょうぶ」
小さい手のひらが指をそろえてひらかれる。
「私の父さんが、手まで持っていかれた。持っていったくせに食べないから、父さんライオンに怒っていた。あとで手はくっつけて治ったけど、父さん、食べ物をのこすの嫌いだから、ちゃんと食えってライオンに手をもっていってた。ライオンももう不味いから嫌がって食べなかったけど」
「父さんの飼育は大変なんだな」
「うん。それでライオン飼う?」
「僕にそんなことをしている暇はない。このさいライオンを飼っているなら、君でいい。ひとつ訊きたい」
「なんだろう?」
「つきあっている異性に嫌われている。騙して好きになってもらうにはどうすればいい?」
「人に騙されやすい人が背伸びして、人を騙そうだなんて草食獣が、まさにライオンになろうっていう試みだね」
「僕だって向いていないどころか、騙したくない心はあるんだ。だがああいう卑劣きわまる人間はこってり絞りきって、食後のから揚げの端でつぶれたレモンみたいにしてやりるのが正義だろう」
「あなたってよくわからないけど、おもしろい人だね。うちのお父さんが言っていたよ。正義なんて言葉をつかう奴は、あやしい勧誘か、あやしい勧誘に騙された哀れな奴だから、手のひらの上でやさしく転がして、楽しめたらほっぽっておくスノードームみたいな遊びに最適だって」
「お父さんのことは訊いていない。僕が訊きたいのは、人間を騙すやり方だ」
「でも彼女さんは、あなたのことを一度は好きだったんだから復縁なんて軽やかなもんでしょ」
「いや、彼女は僕を一度たりとも好きになったことはない。それに復縁じゃない。コンセントをつないで電源を入れたうえで、ブレーカーを落としたいという話なんだ」
「なんでつきあったの?」
「僕を好きになるためだ」
少女は、理解のおよばない方程式へいどむとき用の顔つきをしていた。しかたあるまい。恋愛というのは複雑であって、超高級腕時計をもったいないが分解するとして、その内部構造くらいにはごみごみしている。しかしどこか規則的な美があり、律動するだけで魅了される。
どうもこの少女、僕とおなじか、それ以上に色恋について疎いらしい。僕が色恋がゼロだとして、彼女にとって恋はマイナスなのだろう。頭のなかでお花畑をえがいて、白馬の王子と跳ねまわるのが関の山。
聞く相手をまちがえた。
ライオンを飼っているにしろ、親の七光りじゃないか。
僕としては飼うにしても、親にせがむくらいの度量を求めているんだ。
「悪かったよ。君にはまだ早すぎたな」
「早すぎるというか、だいぶ変化球なんだ。あと私いちおう、中学まで彼氏にはことかかなかったよ」
一転、もう口がまん丸だ。
そのままひとつの円柱になって、どこかの家のえんとつになってやろうという勢いだ。
「君のようなちんちくりんが、超高級腕時計において内部機構をやっていた時期があるのか! それも言い方からして、ひとつやふたつの仕組みじゃないようだ」
「失礼しちゃうなぁ。でもロミオとジュリエット三百回分に相当する経験はあるよ。でもそれだけやっていると飽きちゃって、疲れちゃってさ。もうやる気もなくなったから、大人しめに済ませているんだ」
「それは観客としてじゃないのか? 君のお母さんが三百回よみきかせてくれたとか、演劇のスタッフをバイトでやっていたとか、そんなちんけな落ちなんじゃないのか」
「いつだって私はジュリエット役だったよ。涙も枯れるほどジュリエットをやった。なんだったら、この学校にも元恋人たちがいるから事情聴取してみる? かつ丼をだすまでもなく自供するよ」
なんという自信。
ロミオをとっかえひっかえしているジュリエットは言うことがちがう。僕はもうしかして、ライオンどころかとんでもない怪獣にであってしまったのでは。
だがこの怪獣をつかえば、ミヌの街を踏みあらすまでいけるのではないか。だとしたら僕は百人力のとつもない希望をひろったのだ。
「ところで君は名前をなんていう?」
「ラグだよ」
「協力してくれるか?」
「たのしそうだからいいよ」
このいたずら好きの妖精のような少女が、僕というサクランボをライオンにしてくれるわけだ。トンビが鷹を産むほどでなくとも、怪獣から生まれるのは当然にして怪獣であるし、それより見劣りしてもライオンなんか足元にもおよばない化物ができるのは確実。もう僕はどう転んでも、化物以上、怪獣以下。まったく想像できない。僕はどうなってしまうというんだ。
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