第1章 影の家系って……俺聞いてないんだけど!?
第1話 平凡に生きたいだけなんですけど!?
第1章 影の家系って、俺聞いてないんですけど!?
――――――――――
放課後の教室は、いつも通りだった。
チャイムが鳴り、
部活に行くやつが騒ぎ、
帰るやつがだらけて、
掃除当番が露骨に嫌そうな顔をしている。
――完璧だ。
これぞ日常。
なのに俺は、窓際の席で机に突っ伏していた。
「……はぁ」
自然と、ため息が出る。
「平凡に生きたいだけなのに……」
本当に、それだけなんだ。
特別な力も、宿命も、世界の命運もいらない。
普通に学校に行って、
普通に友達と話して、
普通にちょっと恋とかして、
普通に卒業して、
普通に大人になる。
それで十分だろ。
人生って。
なのに最近、どうもおかしい。
黒板の文字が、二重に見える。
廊下を歩く生徒の足元で、影が揺れた気がする。
――いや、気のせいだ。
きっと疲れてるだけ。
(絶対なんか呪われてる……)
そう思った瞬間、
横から声がした。
「ゼロくん。
今日も一緒に帰ろ?」
顔を上げると、
そこに立っていたのは宮影ナミだった。
落ち着いた声。
柔らかい笑顔。
クラスにいるのに、どこか一歩引いた空気の少女。
「おう、ナミ」
そう返してから、
俺は視線を床に落とす。
「……いや、ちょっと待て」
「どうしたの?」
「なんか、その影……揺れてない?」
ナミは一瞬だけ言葉に詰まり、
それから、静かにうなずいた。
「……うん。
ちょっと“私の影術”が反応してて」
「影術?」
俺は顔を上げる。
「今、普通に言ったけど?」
「え……?」
ナミが目を瞬かせる。
「あれ?
ゼロくん、まだちゃんと話してなかったっけ?」
「聞いてねぇよ!?」
思わず声が裏返った。
「影術!?
何そのRPG用語!!」
ナミは困ったように首をかしげる。
「ゼロくんは“影の家系の末裔”なんだから……
本来なら、知ってないと……」
「初耳なんだよォォ!!」
教室に、俺の叫びが響いた。
ざわ、と視線が集まる。
完全にやらかした。
すると、隣の席から、
くすりと小さな笑い声が聞こえた。
「ふふ……」
妖艶な黒髪の少女――結影サヤが、
意味ありげにこちらを見る。
「気づかないはずがないのにね」
「なにが?」
「“あなたの影神眼”が、
もう目覚めているのに」
「影神眼!?」
俺は思わず立ち上がった。
「また知らん単語が増えた!!
俺の知らない設定、どんどん追加されてくんだけど!?」
サヤは楽しそうに微笑む。
「知らないなら、私が全部……
丁寧に教えてあげるわ」
一拍、間を置いて。
「夜に、ふたりきりで?」
「その提案だけ妙に危険なんだよ!!」
心臓に悪い。
色んな意味で。
俺は頭を抱えた。
影。
家系。
影神眼。
どれひとつとして、
俺の人生設計に入ってない。
平凡に生きたいだけなんだ。
それのどこが悪い。
「……なんなんだよ、もう」
小さく呟いた声は、
誰にも届かなかった。
けれど――
俺の足元で、
影が、わずかに揺れた気がした。
――――――――――
第1章・第1話 了
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