あなたの義手を/あなたの義手と繋ごう

藤泉都理

あなたの義手を/あなたの義手と繋ごう




 無事に次の一支である午へと暦を譲渡し終えた、十二支が一支の巳は、後継者を選んだ後、ただの蛇となり、奏多かなたという名前をつけ、地上へと降り立った。

 旅に出るためだ。

 己の手を見つける長いながい旅。

 夢を叶えるための長いながい旅。

 巳の時に従者であった、空に浮き毒を持つ箱クラゲである円雀えんじゃくを連れ立って、奏多は身体をくねらせて地を進み続けた。




「奏多様。食べていい?」

「いいえ。食べてはいけません」


 雑食である円雀と同じく雑食である奏多は涎を垂らしながら、地に伏す人間の男をじっと見つめていた。

 動物どころか植物すら生えていない水溜りと岩だらけの世界で、初めて見つけた獲物であったが、奏多はもう一度、食べてはいけませんと言った。

 直観である。


「この人間は私の手を作ってくれるのですから」


 奏多はじっと人間の男の片腕を見つめた。

 そこだけが機械である男の一部分を。






「いやあ。確かに俺は義手作りの名人だけれども。蛇に義手を作るのは無理じゃないかなあ」

「つべこべ言わずにさっさと奏多様に義手を作れ」

「ぎゃあああああっ!? ぬるぬるしてるううううう溶かされるううううう!!!」

「うるさい」

「円雀。離れなさい」


 奏多と円雀が水溜りの水をかけまくった結果、目を覚ました男は夜市よいちと名乗ったのち、奏多が夜市に願い出たところ、夜市が無下に断ったので、夜市の顔に覆い被さる円雀に、僅かに硬質な声音で言った奏多。渋々ながらも離れた円雀にもうしてはいけませんよと釘を刺しつつ、夜市に申し訳ありませんと謝罪した。


「あ。ぬるぬるしてない。よかった。ふう。溶かされて喰われちまうかと焦ったぜ」

「円雀の無礼をお赦しください。私を思い余っての行動だったのです」

「ああ。よおっくわかったよ。君をすんごく大切に想っている番犬ならぬ番クラゲだってのはな」

「どのような苦痛にも耐えてみせます。対価も支払います。ですので、私の義手作りをお願いできませんか?」

「何故俺に頼むんだ?」

「直感です」

「直感」

「ええ。直感です」

「ふうん」


 胡坐をかいて頬杖をついていた夜市はじっと奏多を見つめて、何故義手がほしいのかを尋ねた。


「編み物をするため。絵を描くため。文字を書くため。料理をするため。手を繋ぐため。私は仲間の中で唯一、手がなかったのです。私だけ仲間外れ。寂しかった。けれど、私は。手がない存在で在り続けなければならなかった。役目を果たすまでは。ただし今は違う。もう自由の身なので、義手を作る事にしたのです」

「そうか」

「はい」

「………必ず義手を作ると約束はできない。まずは君を色々と知らないといけないし。色々と調べないといけないし。色々と揃えないといけないし。うん。長い旅になるぞ。覚悟はできているか」

「望むところだ。ね。奏多様」

「ふふ。ええ。夜市。ありがとうございます。よろしくお願いします。円雀も。これからもよろしくお願いします。私を支えてくださいね。私も微力ながら支えます」

「はいっ!!! 奏多様っ!!!」

「ああ。本当に強火の想いだな」


 奏多と夜市の間に割って入った円雀から発せられる熱波に苦笑しつつ、夜市は両腕を天高く上げてのち、手ずから作った義手を見つめた。


(決めてたってのに。俺ってやつはまったく。俺は誰にも作ってもらえなかったから、俺は誰にでも作るって。はは。けどまさか、客第一号が蛇とは思いもしなかったぜ。あ~あ~。ちょう無理難題じゃね? まあ。けど、)


「ほら。さっさと立て。さっさと歩け。夜市。さっさとしないと髪の毛を溶かすぞ」

「こわっ。止めて俺の自慢の硬髪を溶かさないで。助けて。奏多」

「円雀。だめですよ」

「だって奏多様~~~」

「ふふ。ほら。行きましょう。円雀。夜市」

「はい。奏多様!」

「ああ」


 身体をくねらせて進む奏多と空に浮きながら進む円雀を、胡坐をかいたまま少しの間だけ見つめたのち、夜市はやおら立ち上がって後を追ったのであった。




(人生計画じゃあ、数えきれないくらいの人間に義手を作って作って作りまくるはずだったんだけどな。もしかしたら、奏多だけ。最悪。奏多の義手も作れないって事になるかもしれねえが、)




 諦める事だけは、止めてやる。




(一生を懸けてでも、俺は。俺が作る)











(2026.1.15)



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あなたの義手を/あなたの義手と繋ごう 藤泉都理 @fujitori

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