神様の床下

 その夜、たぬきはいつものように『金色の大どんぐり』の下で丸くなっていた。


 世界は静かだ。

 風が葉を揺らす音と、遠くを走る車の走行音が、一定のリズムで夜に溶けていく。

 ここには、たぬきを叱る母さんも、退屈な兄弟たちもいない。


 ウトウトとまどろみかけた、その時だった。


 ――カツ、カツ、カツ。


 石段の方から、硬質でリズミカルな音が近づいてきた。

 たぬきは弾かれたように顔を上げる。

 石と硬い何かがぶつかる、たぬきの大好きな『知らない音色』だ。

 けれど、そのリズムはどこか乱れていて、重たい。まるで手負いの獣が、足を引きずっているようにも聞こえる。


 たぬきはその音に釣られて、のっそりと縁の下から鼻先を出した。


 月明かりの下、一人の人間が境内に現れた。

 長い毛(髪)を振り乱し、よろよろと拝殿の階段に腰を下ろす。


 そして、人間は懐から『鮮やかな色の筒』を取り出した。


 ――プシュッ!


 夜気を切り裂く、鋭い破裂音。

 ああ、なんていい音なんだ。

 たぬきはその音に魅了され、警戒心も忘れて身を乗り出した。


 その時、人間が顔を上げ、月光がその顔を照らした。


「ぴゃっ!!!」


 たぬきは息を呑み、

 またしても『石化たぬきはもうおしまいです』した。

 

 間違いない。

 青白い顔の、その両目の下。

 そこに、たぬきと同じ『黒い模様目のクマ』が張り付いていたのだ。


 こんな光の森に、『タヌキ同胞』がいたなんて。

 彼女はきっと、ここで暮らしている名のある大ダヌキに違いない。

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