光の森へ

 季節が巡り、親離れの時が来た。


 兄弟たちは皆、より深く、より暗い山奥へと旅立っていく。

 そこには豊かな餌があり、身を隠すための藪があり、そして退屈な『柔らかい音』が充満しているらしい。


 たぬきは、兄弟たちの背中を見送ったあと、くるりと反対へ向きを変えた。


 たぬきが目指すのは山頂ではない。

 麓(ふもと)の向こうに広がる、夜でも昼のように明るい場所。

 母さんが「決して近づいてはいけない」と教えてくれた場所。


 ――『光の森』だ。


 風に乗って、微かに聞こえてくるのだ。

 ゴーッという地鳴りのような音。

 ピーッという鋭い鳥の鳴き声のような音。

 あそこに行けば、あの『歌う石ア〇ヒ・スーパード〇イ』のような、硬くて冷たい音が無数にあるに違いない。


 たぬきはのんびりとした足取りで、山を下り始めた。

 不思議と恐怖はない。

 好奇心が、本能的な警戒心を上回ってしまっているからだ。


 どこまでも平らで硬い地面アスファルト

 その縁に沿って、たぬきはトテトテと歩を進める。


 やがて辿り着いたのは、光の森の入り口にある、静かな場所だった。

 見上げるほど巨大な赤い木の門がそびえ立ち、その奥には砂利が敷き詰められた空間が広がっている。


 人間たちがジンジャと呼ぶその場所は、夜になると人気がなくなり、静寂に包まれる。

 ここなら、誰にも邪魔されずに音を楽しめるかもしれない。


 たぬきは、一番立派な建物の床下――湿気も少なく、快適な隙間を見つけた。

 頭上には、太い縄で吊るされた巨大な鈴がある。

 風が吹くたび、ゴオン、ゴオンと、腹の底に響く重低音を奏でる『金色の大どんぐり』だ。


 ここを拠点にしよう。

 神様の床下で、たぬきは新しい生活を始めることにした。


 まだ見ぬ『同胞』との出会いが、すぐそこまで迫っていることも知らずに。

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