第11話 絶縁のメス

絶縁のメス


青白い光が 天井を焼き オゾンの匂いが 死を覆い隠す 神に選ばれたと 嘯(うそぶ)く指先が 滑らかな魔法で 命の表面をなぞる時 俺は 足元のドブに流れる 鉄の匂いを嗅ぐ


右手の神経は 静かに死に絶え 誇り高き異能は 奪い去られた 残されたのは 震える左手と 何万体もの死体から 聴き取った微かな声 「痛い」と 「生きたい」の 震える境界線


魔法の電池が切れた そのあとに あんたたちの神様は どこへ行った? 真っ白な白衣が 冷や汗で濁り 絶望の叫びが ナースコールを掻き消す その時 俺の泥まみれのブーツが 地獄を歩く


奇跡なんて いらない 俺が信じるのは 指先に伝わる肉の弾力と 組織を編み上げる 一本の糸の抵抗 汗にまみれ 血を啜り 泥を噛んで ただ一秒の呼吸を この世に繋ぎ止める執念


見ろ これが人間の 本当の温度だ 神の座から 滑り落ちた気分はどうだ? あんたを救うのは 祈りじゃない 俺の壊れた右手が 掴み取った 汚れた現実だ


夕陽は アスファルトの影を伸ばし シルバーカーの車輪が 孤独を奏でる 神様なんて どこにもいない だが 今日を生き延びたお前は 確かに 俺の隣で 温かい息を吐いている


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